飛び降りようとしていた想い人を助けた後の関係値。〜彼女に拉致され『カフェ友』になったかと思ったら、今度は俺の勘違いで『同棲生活』が始まりました!?〜
第13話:雲里家の三人と、一人のお嫁さん候補──。
第13話:雲里家の三人と、一人のお嫁さん候補──。
「ど、どうでしょうか?」
セーラー服の袖を捲って綺麗な白肌を出し、その上からエプロンを着た可愛い日野(嫁にしたい!)が、雲里家三人衆に恐る恐る尋ねる。
「うん、私の料理とは比べ物にならないくらい美味しいわ」
「ああ、我が妻のゴミのような味付けとは大違いで美味いよ」
「日野って、本当に料理上手なんだな。母さんの料理がいつもゴミみたいだから、より一層美味さが引き立ってる」
そう、時刻は午後七時ということもあって、今日は俺の家に来てくれた日野が、料理下手な母さんに代わって、夕食を作ってくれたのだ。
メニューはご飯に味噌汁、魚の煮付けにほうれん草の胡麻和え、その他諸々、全て和食のメニューであったが、どれもお世辞抜きでとても美味かった。
「ほら、みんなもこう言っているから、水葉ちゃんはもう少し自分に自信を持っていいのよ」
「我が妻の言う通りだよ、水葉ちゃん」
「ああ、そうだな。特に味噌汁が超美味い!」
「は、はい。それなら良かったです。……その、特に葉瀬くんが味噌汁を毎日作りに来てほしいと言ってくれたのは、死ぬほど嬉しいです(モジモジ)」
日野はそんなことを顔を赤らめながら恥ずかしそうにそう言った。
か、可愛い。照れてる日野は、控えめに言って天使だな。
それに、今は苗字が三人とも雲里なため、俺のこと『葉瀬くん』呼びしてくれてるし。
諸君は、好きな子から下の名前で呼ばれたら、どうするだろうか。
普通、発狂しちゃうよな。
「ひゃっひょい‼︎」
「ど、どうしたの急に……」
あっ……ちょっと引かれちゃいました。
でも、それにしても(話題変更)、日野はまだ顔が赤くて、まだモジモジと恥ずかしそうにしている感じだった。
多分おそらく、普段人に褒め倒されたりすることが少ないため、慣れておらず、こんなにも顔を恥ずかしそうに赤らめているのだろう。
まぁ、味噌汁を毎日作りに来てほしいなどとは一言も口にしてはいないのだが……。
でも、日野が本当にこの瞬間だけでも、幸せそうに笑ってくれて良かった。
本当に家に呼んで正解だったな。父さんと母さんともすっかり打ち解けているしな。
そのせいで、俺の真っ白な心の中に独占欲というものが生み出されてしまったが。
ん……?それにしても、日野が恥ずかしがりモジモジしている様子から天使のようなオーラが出ているのはわかるのだが、母さんから闇のオーラが出ているのは何故だ?
さらに詳しく説明すると、その悪魔のような恐ろしい力は俺と父さんの方に向けられている。
天使と同じ空間に悪魔が共存してしまっている、この謎の風景とはいったい……。
「そう言えば、そこの野郎のおふたりさん。誰の料理がいつもゴミみたいなのか、教えてもらってもいいでしょうかフフフ」
あっ、そうだった。父さんがしれっと母さんの料理ディスっていた流れに乗せられ、俺もディスってしまっていたの忘れてた……。
その後、俺と父さんは逃げる間もなく、母さんのドロップキックを喰らうことになったのだった。
○●○
「「イテテテテ」」
「ごめんね、水葉ちゃん。ちょっと騒がしくしてしまって」
「いえ、大丈夫ですよ。本当に家族仲がよろしいのですね。本当に葉瀬くんが育ってきた環境って、感じがします。ふふっ」
日野は母さんからドロップキック遠喰らった俺の方を見詰めて、そう言った。本当に今も優しい瞳を向けてくれている。
でも、俺は、否、心理カウンセラーである父さんと母さんの二人も合わせて、彼女のその温かい微笑みの中に潜む哀しみを決して見逃しはしなかった。
「も、もうこんな時間ですね。私、そろそろ家に帰りますね。本当に今日はありがとうございまし──」
「日野、待ってくれ!」
「は、葉瀬くん……⁉︎」
突然、前のめりになって、帰ろうとする日野の腕を引いた俺に、彼女は当然驚きを隠せずにいる。
でも、今はそんなことに構っている暇はない。
ここで彼女を返してしまってはいけない。
いや、むしろここからが俺たち雲里三人衆の本番なのだ。
そうしないと、今日この家に彼女を連れ込んだ意味がない!
「えぇっと……」
日野は右手を口元に当てて、困った表情をしたまま固まってしまっている。
くそっ、超可愛い〜。じゃなくて、固まってしまった日野を打ち砕く程のサプライズをしなくてはな。
「父さん、母さん、準備は……!」
「「オッケー‼︎」」
父さんと母さんは、手に持ったクラッカーを思い切り引いた。
──パァン‼︎
そして、その音が鳴り響いた瞬間、日野の腕を握っていた俺は、彼女に向かってこう言った。
「誕生日おめでとう、日野!今年からは我ら雲里家の三人衆が君の誕生日を毎年祝うから、もう生まれてきたこの日に、哀しそうな顔するな」
「……うぐっ」
日野は下の方を向いて泣き出した。本当は手で塞いでその泣き顔を隠したいところだろう。でも、彼女がそうしてしまったら、彼女の今まで受けた深い傷を知ることはできない。
だから、俺は彼女の腕を取って今も尚、離さないのだ。
「日野、辛かったな。好きなだけ泣いて良いよ」
俺がそう言うと、しばらく声を潜めるようにして泣いていた日野は、俺の胸の中に入り込んで、子供っぽくちょっぴり大きな声で泣き出した。
心理カウンセラーである父さんと母さんは、俺が日野から聞き出した彼女の誕生日の日程に合わせて、家に呼び込んだのだ。
もしかしたら、死にたがりの彼女は、生まれて来たこの日を哀れんでいるのではないのかと。
案の定、彼女はそうだったらしい。
心理カウンセラーである二人は、俺とは違って、聞き出したいことをオブラートに包んでナチュラルに、日野の口から言葉にさせることが出来る。
先程まで、俺抜きで行われていた父さんと母さんと日野とのたわいのない会話には、実はそう言った趣旨があったのだ。
なんか少々、俺を三人で罵倒するシーンもあったような気がするが……。
でもまぁ、日野が抱えていた苦しみをほんの少しかもしれないが、吐き出せたのだからよしとしよう。
だが、あとひとつだけ、二人から書き出した日野の情報の中で、気掛かりなことがある。
それは、彼女が今、一人暮らしをしているということだ──。
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