第12話:ボソボソ族になった日──。
うちの両親と、日野が絶対に気が合いそうだと感じた一番のに理由──それは、同じボソボソ族だからだ。
「まさか、うちの子に惚れてくれる子がこんなに可愛くて良い子ちゃんだとはねっ(ボソボソ)」
「お、お義母様、そ、それは私を買い被り過ぎですよぉ〜(ボソボソ)」
「そんなことないぞ。全く、うちの息子には勿体無いくらいだよぉ〜(ボソボソ)」
「お、お義父様まで〜(ボソボソ)」
日野は香を赤くしてなんだか照れてるようだが、いったい何を話しているのだろう?
「「それにしても、いつからお付き合いしているのかい?(ボソボソ)」」
「それがまだでして……(ボソボソ)」
「「な、なんだってぇ〜⁈うちのバカ息子はまだ、あんなことやこんなことどころか、普通のキスとかディープなやつどころか、水葉ちゃんに告白すら出来とらんのかぁ‼︎(ボソボソ)」」
ん……?なんか父さんと母さんが俺をぎろっと睨みつけてきたのだが。えっ⁈
「す、すみません……私、まだ葉瀬君に告白する勇気ガチャン出なくて……(ボソボソ)」
「水葉ちゃんはなにも悪くないよ。全く、あの鈍感息子が!(ボソボソ)」
「全く、誰に似たのかしら?あの鈍感息子は(ボソボソ)」
なんか、俺に対して、ボロクソ言ってるように見えるぞ?
「もう、声を揃えて言ってやりましょう!(ボソボソ)」
「そうだな、水葉ちゃんも準備OK?(ボソボソ)」
「はいっ!これまでの鬱憤を全部出し切っちゃいます!(ボソボソ)」
さ、三人が結束し始めた。いったい何が始まるんだ?
「よしっ。せぇーの‼︎」
「「「この鈍感野郎ぅぅぅ!!!」」」
何故だかよくわからないが、俺の元に三人の罵声が一気に飛び交ってきた。
○●○
とにかく、うちの親とも仲良くなってもらえてよかった。
なんとなく気が合うような前々からしていたからな。
いきなり、鈍感などと意味のわからない罵倒をしてくるところとか。
俺は父さんと母さんと一緒に笑って幸せそうに話している日野の姿を、ちょっと離れた所から眺めていた。
なんだろう、この湧き出てくる感情は?
こうやって、日野が──想い人が、笑顔でいてくれるのは、俺にとってもの嬉しいことのはずなのに、なんだか何処か少々もどかしい気がする。
普段クールでいる高嶺の花のような彼女の、こんなにも美しくて可愛過ぎる笑顔を俺だけが知っていたはずなのに、先程出会ったばかりの両親にそれをすぐに見せてしまったのが、なんだか悔しくて──。
俺だけの日野を、ちょっと取られた気がして──。
まだ、付き合ってすらないくせに。高嶺の花である彼女が、俺に恋愛感情を抱いてくれてるわけないのに──。
なんだか、独占欲的なものが湧き出てしまっている。
そして、俺は気付くと、リビングで未だに両親と一緒に笑っている日野に向かって、ちょっと大き過ぎるような声で叫んでしまっていた。
「日野っ!」
「きゅ、急にどうしたの、雲里君?」
「えっと、その……」
「ん……?」
急に日野を大声で呼んだうえに、言葉が詰まってしまっている俺を彼女は、不思議そうに見つめていた。
けれども、俺を見詰めてくるその瞳は、俺だけに見せてくれる優しく、温かいものであるということには、すぐに気がつくことが出来た。
だから──、
「君のその笑顔を、この世界で一番見せてくれる存在は、どうか俺であってほしいな(ボソボソ)」
「えっ?」
やっぱり、今の俺には恥ずかし過ぎて、しっかりと日野に向けてこの気持ちを伝えることが出来なかった。
だけど、いつの日にかは必ず──。
はっきりと想いを届けられるその日まで、俺も『ボソボソ族』の一員として、一応加わっておこう。
○●○
ちなみに、後に発覚したことだが、父さんと母さんは、俺がボソボソ言っていた内容をしっかりと聞き取れていたらしい。
このことは、日野と同棲することが決まってから、ずっとイジられることになるのだが、それはもう少し先のお話──。
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