chapter2:現在の関係値は『想い人以上恋人未満』です!

第10話:彼女と、雨上がりの空と──。

 作者 前書き


 ここから、新章に突入致します!これからも作品とハッピーサンタをよろしくお願いします‼︎



            ハッピーサンタ

 ___________________




「マジでこんな綺麗な虹、滅多に観れないから、俺たち今日結構ツイてるよな」


「……そうね」


 俺は学校の屋上から灰色の空に被さる七色の光の線を、日野と一緒に見上げていた。


 やっぱり、まだあの日のことが頭から抜けないんだよな。


 それもそうと言っていいだろう。おそらく、あの時の一度ならず何度も、日野はこの世界から自分の存在を消すことを考えていたに違いない。


 現に今も日野は、虹を見詰めることよりも無意識のうちにか、フェンスの柵の向こう側を、呆然と眺めてしまっている。


 なんとか、俺が日野を死の道から生きる道にに引き戻さなければならない。


 さて、どうやって日野の心に死ぬことよりもよほど価値のある『生きることの素晴らしさ』を伝えるべきか……。


 そんなことを考えていると、先程まで遠い目をしていた日野が、急に俺に話し掛けてきた。


「今日の放課後も、私に付き合ってもらっていいかしら……?」


「お、おう、良いぜ。今日は何頼むんだ?」


 そうだった。日野にも生きる楽しみはちゃんとあったんだよな。でも……。


「ええっ……とね、その……」


 なんだか、『カフェを楽しむ』ということ、それひとつだけでは物足りないというような顔をしているのだ。

 それに何故だかよくわからんがもじもじしてるし。

 日野は自分の両手の人差し指どうしを、胸の位置のセーラー服の赤いリボンの前で、擦り合わせながら、何かボソボソと言い、ポニテールから取り残された耳の横に少しだけかかった綺麗な黒髪の束をクルクルとして、をこれを繰り返している。


 控えめに言って超可愛い!やはり、清楚系美少女がもじもじする姿はたまらんでござるな……ンゴンゴ……デュフフ……。


 ごほんっ!


 断じて、気色悪いお下品な笑い方をして、変な目で日野を見ているわけではない。本当です!どうか諸君は信じてほしい。


 それにしても、日野はいったいボソボソと何を言っているのだろうか?


「げ、現段階で、お家に誘うのはまだまだ早いよね……流石にいくら超鈍感な雲里君でも、いきなりお家に誘ったら、私が雲里君に気があることバレちゃうよね……(ボソボソ)」


「あ、あのぉ日野……日野さん?」


「でも、私がもたもたしている間に、雲里君を誰かにでも取られでもしたら……(ボソボソ)もう私生きてけないしぃぃぃぃ〜‼︎(←この最後の文だけ、うっかり大声を出して言ってしまった……)」


「い、生きてけないのか日野!なんか辛いことがあったら全部俺がなんとかするから、頼むから、マジで生きててくれ‼︎(←勘違い)」


「あっ、えっ、い、今のはそういう意味じゃなくて……そのぉ……」


「そのぉでも、、なんでもない!いくらなんでも今の言葉は放って置けないし、なによりもお前自身が心配過ぎる!」


 このまま日野が俺から目の付かないところに行ってしまったら、また死のうとするかもしれない!


 それを防ぐにはどうすれば良いか。そんなの答えはたったひとつしかない!


 それは──、


「日野、今日の放課後、俺の家に来れるか?いや、来れないと言っても無理やりでも、俺の部屋に引き摺り込んでやる‼︎」


 そう、つまりそういうことだ。俺の家に居てもらえば、俺の目からずっと離れることもない。それに家族もいるし。


 確か、日野は今、ご両親が海外転勤になって一人暮らししているって言ったたしな。


 よしっ、これで決まりだ!


 日野の方は……流石に、いきなりの話だったから、驚きが隠せていないな。

 でも、この方が彼女の身のことを考えると、圧倒的に安全であるということには間違いない。


「わわわわわわ、私、くくくくきゅ、きゅもざと君の家におじゃましちゃって本当に良いの⁈」


「そ、それは俺から誘ったわけだから全然良いに決まってるけど……」


「そ、それに、俺の部屋に引き摺り込んでやるって、私、雲里君に襲われちゃうのかな。でも、雲里君になら、私の初めてを……(ボソボソ)」


 きゅもざとって、めっちゃ噛んでてかわええなぁ〜。こんなに慌てふためく、日野は初めて見た。

 なんか、後、ボソボソ言っていたのは、いつもの如くよくわからなかったが、なんか謎にスケベな顔してるよな……?俺、なんか変なことでも言ったかな。

 でも、今はそんな可愛い彼女にも見惚れてる暇なんてない。彼女に対して言わなければならないことを全部、彼女の心に伝えなければならない!


 俺は自分の心にしっかりと喝を叩き込んで、灰色の空からオレンジの光が射し込み、俺と日野を照らす中、思い切り叫んだ。


「俺はお前が大切な存在なんだから、どうしても、絶対に居なくなってほしくないんだよ‼︎」


「ほわぁ〜うぐうぐっ……」


 日野は急にポロポロと最初はゆっくりと涙を流していたが、どんどん泣き声が聞こえてくると思うと、彼女は俺の腕の中に入り込んで声を外に漏らさぬようにと抑えていた。


 俺はただそっと、「大丈夫だよ」と言って、彼女に頭をそっと撫でることしか出来ないけど、日野が、俺の『想い人』が辛いことをちゃんと吐き出せる居場所になれたのなら、まぁ良かったのかな。


 よしっ!次は日野を幸せにすることの出来る居場所に俺が絶対にならなくちゃな。

 好きな人に対して、それすら出来なくていったいどうする?

 まだ見たことをない、こいつの何処かで失ってしまった本当の笑顔を取り戻して、俺はそれでようやっと、自分の想いを彼女に伝えることができるんだ!


 俺はそう、心に誓うと再び世界を包み込む空を見上げた。


 ──もう、天気は快晴だ。

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