chapter1 幕間『日野水葉の恋じゃらし。』

第8話:日野水葉の恋じゃらし。(幕間①)

 ここからヒロイン目線のお話が2話程続きます。

 chapter 1の幕間的なものとしてお楽しみください。



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 誰よりも優しい彼に、「あなたは優しい子」だと、そう言われたあの日から、教室の前の席である彼と、ちょっぴりお話するような仲になった。


「……ねぇ。そのあなたが読んでいるライトノベル?という小説は、そんなに面白いの?」


「ああ、面白いとも。この『青い鳥のアナタとなら3000年のデートが欠かせない。』略して『青ない』は、アニメ化もした累計発行部数、五百万部を超える人気作だ!」


 そう言って、彼はその『青ない』とやらを私の目の前に掲げてきた。


「へぇ。そんなに人気なんだ。次の巻はいつ出るんだろうね?」


「ああ、この原作者である馴鹿となかい山太さんた先生は、よく編集部から逃げて、度々失踪事件起こしてることで有名だからね。しかも、今回に至っては、失踪して四ヶ月以上経ってるらしいし……次があるかすら怪しい(ショボン)」


「えっ、それって大丈夫なの……?」


「わからないけど、こんな作品を書ける先生だから、多分きっと大丈夫だと思う」


「ヲタクの大丈夫の基準がわからないわ……」


「文章を読む限り、優しさが伝わってくる先生だから、きっと救ってくる存在もいるはずだよ」


「そっか」


 でもまぁ、彼がそう言うのならば、大丈夫なのかな。


 きっと、私にとっての彼──雲里君みたいな存在が、その馴鹿先生とやらを救い出してくれるはずだろう。


 どちらかというと、その馴鹿先生とやらが書いた作品よりも、その方が救われる暖かい物語があれば、そちらの方が個人的には読んでみたいのだけど。



 ●○●



 そんな彼の趣味の話に付き合いながら、数日間が過ぎていった。


 そして、彼とちょっぴりお喋りをする関係になってわかったことがある。


『ちょっぴり変な子』


 うん。一言で表現するならば、これに尽きる。


 先ず始めに、彼は私と同じく、クラスの中でボッチであるということ。


 それは私みたいに、他人と関わりたくなくて、敢えて冷たい空気をまわりに出して近寄らないでアピールをする性格だったら、まだ全然理解が出来るのだが、彼は別にそうではない。


 では、何故近寄らないでオーラを出していない彼に誰も近付こうとしないのか。


 理由は簡単──。


「陰!陰!陰!陰!陰!陰!陰!陰!」


 彼──雲里葉瀬から無意識の内に放たれる陰パワーの力があまりにも凄まじ過ぎて、クラスで全く目立っておらず、酷い話空気のような存在としてクラスメート全員に認知されてしまっているからだ。


「今日も陰キャ丸眼鏡もやしっ子体質のせいで、日野以外誰も寄って来ない」


「そうね……」


 私は彼に対して、いつものように冷たく返すが、流石に可哀想に思えてくる。


「はぁ~。俺にはバンドのボーカリストよりも、大勢の注目を集めると言う人生の目標があるのに、一向に叶いっこなさそうだ。あっ、もちろん目立つのは良い意味でね」


 なんで、バンドのボーカリストさん以上の注目を浴びたいのかは謎だけど、まぁそこはちょっぴり彼が変な子だから、ほっといてもいいかな……。


 でも、今の彼の発言のお蔭で、彼を良い意味で目立たせるアイデアが私の脳に浮かんだ。


 よぉ〜し。そうと決まれば、後は行動あるのみよね。


 こうして私は、を実行するために動き出した。

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