第6話:猫舌さんのコーヒーじゃらし。②

「えっ……」


 日野が凍りついたように固まる。微動だにしない。


 あ……ヤバい。


 日野の固まって拍子抜けしてしまった表情を見ると、流石の『キャットラテ』の快楽に酔ってた俺も、自分の失言を悟った。


 な、何言うてるねん、俺は?!


 これは流石に自分からデートに誘っていると疑われても擁護出来ない発言だ。


 不適切発言は政治家だけの問題じゃないぞ、諸君!


 ……うん。これは変な奴の日野に変な奴だと思われてしまったな。


 俺は一応、誤解を解くために、日野に向けて口を開こうとした。……が──、


「熱ッ!……」


 弁明の儀を申し上げようとする前に、日野の可愛いくて、実にJKらしい声が俺の耳の横を通過していった。


 俺は、ふと日野のカップに目をやる。


 うん。……やはり、案の定と言った感じだな。


 日野のカップは、跡形もなく、全て完全に消し炭にされてしまった俺のカップとは違い、まだ甘えてポーズを取る猫が息をカップの中でしていた。


 要するに日野は──、


「猫舌だな(笑)」


「……うっ。 バレた……。と言うか、(笑)とか付けないで!」


「じゃあ、猫舌で草」


「草も生やすなぁ~!」


「ぐふふwwww」


「だから~!」


 日野の表情が、今までに見たことのないまでに、赤く染まっている。


 めっちゃ、照れてる。


 しかも、「○○するなぁ~」って言い方、めっちゃ可愛い過ぎだろ。


 もう、ラブコメヒロイン通り越しちゃってるよ。


 ──同じクラスのクールな美少女の素が実は可愛かった件。


 こんなラノベ出たら、軽く一億万部くらいいくんじゃない?世の中に住み着くヲタク魂を持つ者達は、皆書店に足を運ぶことだろう。


 それにしても、普段、何があっても動じない奴なのに、どうして今は?


 俺にそんなに猫舌であることがバレたくなかったのだろうか?


 でも、この表情が拝められて、デュフフ……。


 ゴホンッ。気を取り直そう。(別に気持ち悪い笑い方なんて俺はしてないぞ!)


 でも俺だけ、この表情が見ることが出来て、何故だかめちゃくちゃ幸せだ。


「あのな、日野」


「な、なによ……」


 いつもの調子に戻そうとするが、やはり出来ていない。


「今日は俺に奢らせてくれよ、それ」


「えっ……?」


「次、また一緒に来た際に、今度は日野に奢ってもらうから」


「それって、つまりデー──」


「あっ、ベ、別にデートとかじゃなく、同じクラスメイトとしての付き合いでな……!」


「そ、そうよね(ショボン)」


 あれっ?今、ショボンって聞こえたような……まっ気のせいか。


 でも、なんだか今日は良かったな。


 クラスメイトである謎多き美少女の、可愛い超レアな一面を俺だけ見れたからな。


「あ、あの……雲里君。今日のさっきの表情とかやり取りのことは……」


「ああ、誰にも言わないよ。別に言う相手もいないし」


 陰キャボッチ&ヲタク丸眼鏡である俺を舐めるなよッ!


 日野は心配そうな表情と声(これまたレア)で、そう聞いてきたが、俺の『陰キャ&ボッチ証明』で口外は決してしないから大丈夫だと言うことを伝える。


 すると、日野はピカッと眩しくなるような笑顔で、こちらをじっと見詰めると、顔を再び赤くして、もじもじしながら、こう俺に提案してきた。


「そ、それなら、私と友達にならない?」


「い、良いのか?」


「う、うん。私、ちょっと人間不信気味で、本当に信頼できると思う相手としか付き合わないから」


 そうか。そんな理由があったのか。だから、学校ではあれ程までの無表情を。


 きっと、人間不信になってしまった経緯は、他人に話したくない程、また聞かせたくない程、暗くて辛くて救いようのない物語だったのかもしれない。


 でも、それでも──。


「友達になってくれるってことは、俺のことを信用してくれるってことだよな……」


「……うん」


 ……よしッ!ならば、答えは決まりだ!


 俺は自分に『喝!』を叩き込むと、大きく息を吸って、はっきりとした声で、こう言った。


「俺はいつか日野の傷を癒せる存在になる!だから、先ずはカフェ友から始めようぜ!」


「ほわぁ!……うん、わかった雲里君!」


 日野は感情を生かした、その顔と声で、俺の誓いを受け入れてくれた。

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