chapter1:現在の関係値は『カフェ友以上親友未満』です!
第3話:放課後の教室で──。
二年三組、クラスメイト四十一名分の机と椅子。それとプラスして担任専用の書類まみれの小さな机+黒板の真ん前に置かれた教卓。そして、木目と木目の間に掃除では取られなかったと思われるちょっぴり大きなホコリが生き長らえる床。
それら全てを、窓から射し込んで来たオレンジ色の光は照らし、照らされたそれらは、自らが受けた光を跳ね返そうとして反射する。
そんな情景を、誰も居なくなった放課後の教室で、ただ『ぼー』と見渡す、俺氏。新聞紙。紳士な男子ぃ~ヨウヨウチェケラ(・∀・)v。
ゴホンッ。
最後に余計な韻を踏んでしまったせいで、先程の情景描写を美しく表した俺の地の文が台無しだ。
まぁ、そんなわけで忘れ物も無事に救出できたわけだし、そろそろ帰るか。
──そう。俺はこの時、教室に誰も居ないと思ってしまっていたため、完全に気を抜いていたのだ。
「……ねぇ。ちょっと待ってくれないかしら、
不意に俺の席の後ろから、そんな言葉が掛けられる。
「……えっ、日野?!」
俺は当然驚いてしまい、ファルセットが巧みに使用された裏声を二年三組の教室中に響き渡らせてしまう。
「そんなに驚かなくても……私って存在感ないから、好きな人にもこうやってグスン(ボソボソ)」
俺の後ろの席に座る同じクラスメイトの
一言で表現するなら、『清楚な感じ漂う黒髪ロングのクール系美少女』が最も相応しいだろう。
艶がある美しい長い黒髪をポニーテールにしており、頭を揺らす度、少し赤く染まった頬の横でふわふわと揺れている。
特に、黒髪を左手の指先でくるくると自分で弄っているときなんかは、俺の視線が彼女に一番向いている時だと思う。紫紅の瞳で黒板をボーと眺めて眺めながら、ぷるっとした桃色の唇に右手の人差し指を当てている姿に、俺は毎回息を呑まれてしまう。
そして、そんな彼女はセーラー服がとてもよく似合っている。
少しだけ膨らんでいる胸元にかかる赤くて大きいリボンや黒いスカートが時々、外に出た時に風で揺れる姿はとても映える。
また、夏に見られる服からさらけ出した白くて綺麗な肌もとても美しい。
ビジュアルは完璧だ。百二十点!
そして日野は、ビジュアルも最高なだけでなく、成績もテストが行われる度に一位をキープし続けており、スポーツも帰宅部ながら、体育の授業では運動部に引けをとらない程の実力だ。
そのため、俺を除くほぼ全ての男子が日野をひと目見ただけで、キャーキャーしているのだ。
では、日野はクラスのトップに君臨する、誰からも拝められるようなスクールカーストトップの存在なのか。
その答えは、否!
なぜなら、先程俺が地の文で述べた通り、日野はいつも無表情で何を考えているかわからないため、誰一人として安易に近づくことができないタイプの人間だからだ。(俺には何故だか、ちょっぴり話してくれるけど)
その上、意味のわからない奇行に走ることも多々ある。
放送室をいきなり占領して、ギターの演奏を全校に向けて流したり(めちゃ上手かった!)、
定期考査前の宿題を倍にするよう、教師に仕向けやがったり(ブーイングの嵐だったが、うちのクラスの平均点は、他のクラスに比べて群を抜いて、学年トップに!!)、
その他諸々……。
まぁ、地の文での説明はこれまでにして、
「あんな音楽の先生みたいな声出させると心臓に悪いから止めてね……。と言うかそれよりも、真後ろにいる私に気付かないなんて……嫌われてるのかな(´・c_・`)(ボソボソ)」
「それはマジですまんかった」
俺は手をパチンと音を立てて合わせ、無表情ながらも、「ムぅ」と頬を膨らまして可愛く(本人はおそらく自覚なし)怒りを表現する日野に、そう言って謝罪する。
まぁ、反省はしてるけど、音楽の先生みたいっていうのは、褒め言葉として、受け取っても良いのかな?
後、最後の方はボソボソ言ってて良くわからなかったが。
……それにしても、まだ「ムぅ」と頬を膨らましたままだな。
そんな、俺みたいな陰キャボッチ&ヲタク丸眼鏡に気付かなかっただけで、そんなに不機嫌になるか?
取り敢えず、一旦落ち着くために水筒のお茶でも飲もう。
「ねぇ?さっきのあなたのラップ?みたいなものは、いったいなんなの?」
うむ?グビグビゴクゴク……ゴホゴホゴホゲホッ?!
「うぇゴホゲホッ」
「だ、大丈夫?そんなにむせたりして……」
「ああ、大丈夫だよ。俺の喉はね」
メンタルの方はぼろぼろですけどね!ってか、あれは地の文じゃなかったのか?!
俺、さっきそんなに気を抜いてたか?
まさか、日野に聞こえる声量で、韻を踏んでしまっていたとは……!(恥ずかしい+なんか無念)
「別に今に始まったことじゃないでしょ。日本史の時間とか、『遣唐使廃止で白紙になっちゃう紳士な男子ぃ~ヨウヨウチェケラ(・∀・)v』とかやってたじゃん……」
「えっ……、マジ……」
「うん……、嘘……」
いや、嘘かい!
今のって、まさかの日野のジョークなのか?……わかりずれぇな……。
もしかして、俺が後ろにいた日野に気付かなかったこと、まだ根に持っているのか?
まったく良くわからない奴だな……でも、日野と話しているとなんだか心が楽になるんだよな。
まぁ、気を取り直してもう一度、お茶飲むか。
俺がそうして、水筒に再び口をつけたその時だった──。
「あと、今あなたが口つけてる水筒……私のだから……」
またきたか。日野流ジョーク。
仕方がない。先程のように乗ってやるか。
なんせ、ジョーク言う日野とかマジでレア過ぎるからな。
友達にも見せてやりたいぜ。居ないけど。
「えっ……、マジ……」
俺は日野のジョークに騙されちゃいました感を出しながら、先程と同じ台詞を口にする……が、返ってきた台詞は先程とは少し、いや結構違っていた。
「うん……、マジ……」
……はぁ!!!!!?????
「それを一番最初に言えよ~!」
友達に見せられない光景だな……居ないけど。
その後、俺は気まずくなる前に、急いでその場から退散した。
●○●
好きな人に取り残された放課後の教室──。
「はぁ~。もう少しだけ、お喋りしたかったのにな~」
そう独り言をぼそっと呟くと、窓の方に私は目をやった。
空の方を見上げると、なんだか雲の様子がおかしいような気がする。
そんな私の感は正しかった。
『ざざぁー』と、透明な雨粒たちが地面を打つ音が響き渡る。
窓も開けたままだから、教室にもちょっぴり雨粒が入ってきている。
……そう言えば雲里君、さっき帰ったばかりだよね。
急な雨だから、きっと私以外傘なんて持ってきてないよね。
よしっ。
私は自分の頬をパチンと軽く叩いて、『喝!』を入れた。
「決行するなら、今日しかないよね!」
私は帰る準備を早急に済ませ、下駄箱でスニーカーに履き替えると、傘を開いて走り出した。
──どうか、雲里君に追い付きますように。
これから暗くなるまで、私と付き合うの覚悟してね。
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