第19話 共闘(1/3)

「魔女……の……造りし……?」

「そうだよぉ!気づいたのは昨日なんだけどね、適格者を探して、魂を入れ替えて、レリックを渡して、口封じに母親を殺して……手の込んだ事をするよねぇ!」

 あはは!と豪快に笑う魔女。足につきそうな赤い長髪が、なびいたまま空中に止まっている。俺は痛みに苛まれながら必死に頭を回す。適格者?魂を入れ替える?俺はどうやってこの世界に来た?ライラは何て言っていた?質量のある体は世界を移動できないが、エネルギーとして振る舞う魂だけ(・・・)なら世界を移動できる……?

 ――という事は、まさか……。

 魂だけこの世界に来た俺が、女性の息子の体に入って転生したのか!!!

「誰がそんな事してるのかは知らないけどぉ、魔女の味方なら私の味方でしょ!わざわざ入れ替える魂なんだから話も通ってるんだよねぇ?」

「イサム、どういう……事だ?」

「知るか!俺も初めて……聞いた所だ!!」

「あれぇ、じゃぁ何で魂なんて変えたのかなぁ」

 偶然か恣意的かは分からない。とにかく俺は、魔女が魂を抜いておいた適格者の体に、世界を移動した魂が入って転生できたのだ。だから初めからレリックを持っていた。だからノーリスクで騎士になれた。だから女性から息子だと言われた。だから女性が魔獣になっても俺には攻撃できなかった。

「俺は……息子の身体で……母親を殺すのを手伝った……と言うのか……」

「落ち着けイサム!!元が誰であろうと魔獣は倒すしか救いが無いんだ!」

 サナがよろよろと起き上がりながら叫ぶ。頭が痛い。この体が俺の身体じゃないなら、一体どうして俺そっくりなんだ?魔法で変えたのか?いや、そうなら女性がこの体が息子の物だと気づける筈がない。元々俺そっくりの人を選んであったのだ。だとすれば、決して偶然ではない。俺は魔女に選ばれて転生させられた事になる。

「さて!ともあれ君は魔女の味方だよぉ!人間のホラ話で言う所のツノ無しが、人間の敵になるなんて良い皮肉じゃないかなぁ!!さぁ帰ろう、こいつらを殺しちゃって」

「違う!!俺はお前らなんか味方するつもりは無い!」

 俺がこの世界に受け入れてもらえたのは、魔女と戦う力があったからだ。俺がこの世界で優しくしてもらえたのは、人類の味方だったからだ。俺が見習いでも騎士に認められたのは、人の敵では無いと信じてもらえたからだ。

 人類と敵対するかはさておき、少なくとも、魔女の味方をする理由は一つもない。

「まぁマッキーのレリックを使うってあたり、私たちの味方ってのは揺るがないと思うなぁ!!マッキーが絶対邪魔するような作戦だし、身体を奪って利用するくらいが丁度良いよねぇ」

「マッキー……?マルキダエルの事か?」

「そうそう!アイツそう呼ぶと怒るんだ、人間は気を付けなよ!ああ、レリックに意識は無いかぁ!!」

「黙れ!!とにかくイサムがお前らに味方する事など無い、我々の仲間だ!」

「うるさいなぁ」

 サナが叫んだ、その瞬間。

 魔女の羽根が鋭い音を立ててサナに降り注いだ。くぐもった振動と共に鎧が砕け、桃色の光が飛び散ったかと思うとベルトに戻っていく。煙を上げるサナの姿が目に入る。もう騎士の姿ではない、生身の人間だ。サナは力無く倒れ、動かなくなった。

「サナ!!!」

 同じく横たわっているライラが叫ぶ。絶望的な状況だ。魔女は満足そうにスカートを蹴り上げると丁寧にお辞儀をし、俺たちをあおる。

「仲間かも知れないイサムにだけ、会話は許可してるのぉ。私、連槍の魔女こと、山羊座のハナエル。私の羽根の潤いになりたい方は他にいるぅ?」

「クソッ!!俺がやる!!」

「よせナスル!!剣も無しにどうするつもりだ!」

「拳で行く!援護しろ、やるしかない!!」

 ナスルは肘で羽根をへし折ると、拳を固めてハナエルの間合いに入る。一発、二発と攻撃は入るが、決して致命傷は入らない。

 剣。せめて武器が有れば。昨日の戦いを思い出す。マルキダエルが俺の身体を操った時に出した長剣。あれがベルトの力ならば、俺にも同じように出せるはずだ。頭を小突く。横に引く。何度やっても、あの長剣は出てこない。

「あは!そっか、あのマッキーのレリックじゃあそんなに力は出ないよねぇ!!アイツは根っからの一匹狼だから、協力なんて出来っこないねぇ!」

「言われてるぞマルキダエル!!出てきて戦え!」

 そうだ。そもそもあの戦いみたいに、マルキダエルが俺の身体で戦えば勝てるかも知れない。かなり危ない賭けだが、やってみる価値はある。逆に言えば、逆転の一手はもう、それくらいしかない。

「悔しくないのかよ!!お前は最強なんだろ?」

『言わせておいて下さい。あいつは本当の雑魚、只の負け惜しみですから』

 聞いてないんじゃ無かったのか。話が通じるなら、まだ交渉の余地はあると言う事だ。こうしている間にもハナエルの羽根はナスルを切り裂き、貫き、刻々と死に近づけて行っている。

「今の身体じゃ勝てるかも分かんないじゃないか!!試してみたくは無いのか」

『その試行に何の意味があるって?黙っててください、そろそろ瓶を出る方法が思いつきそうだから』

「そうかよ!!」

 俺は拳を握る。どっちみち戦うしか道は残っていないんだ。どんな結末になろうと、俺はその場の判断で後悔したくは無い。

「なぁマルキダエル、お前は俺が死ねば魔女の墓に永久に封印されるらしいな」

『何が言いたい。その時までには出る方法を考えておきますよ』

「じゃあ勝負だな。俺が死ぬのが先か、お前が情報皆無な狭っ苦しい瓶から出るクレバーな方法を考え付くのが先か」

『…………』

 歯を食いしばる。足に力をためる。さらに拳に力を込め、崩れ落ちたナスルと入れ替わる形で、ハナエルの懐に潜り込む。

「嚙み締めろよマッキー(・・・・)、初めての敗北の味だ」

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