第14話 一歩前進
いつの間にか見慣れた場所にいた。ここは青門の中だ。無事に死んで戻ってきたらしい。
最後に見たのは、大鷲が塵となって崩れる光景。塵の中から零れたナニカを、最後の気合いで掴み体内に突っ込んだことまでは憶えている。
『見事』
あとはこの言葉。何故か頭の中に残っていた。落下した時も今も、周りには誰もいなかったのに。それでもハッキリと聞こえた。ついでに言うなら僕はこの声を過去に聞いたこともある。過去というか今朝だけど。
「やっぱり観られてたってことなのかな……」
あの声は蛮神様だ。一度しか聞いたことはないけど、神様の声を忘れる訳がない。だから断言できる。
褒められたということは、ひとまず僕の戦い方に満足していただけたのだろう。少しだけ肩の荷が降りた気分だ。
「……やったのかぁ」
遅れてやってくる実感。試しに念じてみると、パッと手のひらに『白大鷲・爪』と書かれた塊が現れた。
「初めてみたけど、これが輝石か」
リーファ様たちが初日に説明してくれた、獣狩りとしての重要アイテム。
妙に角張っていることもあって、組み立て式の部品の一部にしか見えないそれ。
神獣ごとにいくつもの種類があるというし、揃えて組み合わせたらナニカに変わったりしないだろうか?
「……なんてね」
思考が変なところに飛んでしまった。輝石の形なんて、蛮神様がそうデザインしたから以外の理由などないんだ。何を考えたところで無駄だろう。
ともかく門を出よう。ここで呆けていてもしょうがない。
「えっと、役所かな」
心情的にはもう一度塔にチャレンジしても構わないのだけど、理性の方がまずはこの戦利品の保管するべきだと訴えていた。
という訳で役所にゴー。
「あ、戻ってきた」
「エルカ! どうだったの!?」
そしたらなんとお二人に出迎えられた。サテラ様は仕事だしいても全然おかしくないけど、まさか狩りに出ようとしてたリーファ様まで待っていてくれてるとは。
「えっと、ありがとうこざいます。わざわざお待ちいただいて」
「それはいいのよ。それより結果は?」
……なんかリーファ様の反応、何かの試験を受けた子供の帰りを待つお母さんみたいだ。多分それ言ったら叩かれると思うけど。
「ひとまず、コレが結果です」
「……白大鷲の輝石。なるほど」
「へぇー。おめでとー」
あれ? 何か反応が薄い気が。今の台詞的に、もう少し良い反応がくるかなと予想してんだけど。
「……で、どうやって狩ったの?」
「エルカ君の場合それよね。地味に狩るのが面倒な奴倒してるし」
そっかぁ。本命はこっちかー……。どうせ怒られるだろうし説明したくないなぁ。
「……しなきゃ駄目です?」
「その反応で分かったわ。やっぱりマトモな狩り方してないのね」
「いやいやいやいや。蛮神様から『見事』とお褒めの言葉をいただきましたから。真面目な狩りでしたよ」
「単純に訊くけど、自ら【蛮神】と名乗る御方に褒められるような戦いが真っ当だと思う?」
「蛮神様に仕える方の台詞ではないのでは……?」
それは遠回しに蛮神様のことを貶してる気がするのですが。いや言いたいことは分かりますけど。
「で、説明」
「そこら辺に寝転んで大鷲にわざと捕まって、空中まで運ばれたタイミングで翼を傷付けて仲良く落下死しました」
「このお馬鹿!!」
「それを狩りとよく表現したわねキミ!?」
「ちゃんと輝石も手に入れてるんで狩りです!」
確かに相打ち狙いのちょっと変わった方法ですけど! それでもこうして成功しているので結果オーライだと思うのです!
「そういう問題じゃないのよ……!」
「でも蛮神様からは褒められたんで! それはつまり、獣狩りとしては間違ってないということかと!」
「くっ……。立場的には否定しきれないのがもどかしい……!」
「エルカはそれで良いの……?」
「やめてくださいそんな悲しそうな顔をしないでください」
お世話になっている方にそういう顔されると、本当に罪悪感が凄いんですよリーファ様。
「だってしょうがないじゃないですか。僕の実力的に今の段階で狩りを成立させるには、これぐらいの力技を使わないと無理ですもん」
言葉にするとアレだけど、ハッキリ言って蛮神様が悪いんですよ。僕はちゃんと装備整えてから狩りをしようとしてましたし。
「……でも神託のあった当日に狩りを成功させてるってことは、前からその死ねば諸共作戦は考えてたってことよね?」
「そもそもエルカ君が普通に安全第一で活動してれば、我らが神の目に留まるなんてことは絶対にありえないのよ?」
「ぐっ……」
それを言われるととても弱いです……! 実際その通りなので反論が全然できない。特にサテラ様のツッコミはとても痛い。
「……ともかくです。蛮神様もご満足いただけたと思うので、これで一段落かなと。という訳で、コレを預かっていただけると嬉しいのですが」
「また露骨に話を逸らして……」
「いいんじゃない? 初成功でずっとガミガミ言うのも無粋だし。特別に乗ってあげなさいな」
「仕方ないわね……」
あ、許された。
「で、預かるのは構わないけど、この後はどうする予定なの? 我らが神からのノルマも終わったし、また採取に戻るの?」
「いえ。ちゃんと狩りが成立することが分かったので、ひとまず今日はできる限り挑戦してみます。色々と検証したいですし」
この方法でコンスタントに狩れるのなら、採取アイテムで装備代を稼ぐよりも狩りを優先したいところ。
定期的に神獣を狩れるようになれば、それだけ僕自身が強くなれる。早い段階で真正面から戦えるようになれるかもだし、そうすれば一気に状況は進む。
採取アイテムと輝石だと、どれぐらい稼ぎに差が出るのかとかも、最低限知っておきたい。あとは鷲と戦える確率とか、他の神獣に横入りされる頻度とか、時間効率とかかなぁ。
んー、なんなら今日だけじゃなくて何日か検証に回しても良いかも。幸いにして貯蓄は少し余裕がある。
というか、狩り自体は成立したから装備代を貯める必要はないか? 手入れの費用だけ抜いて、一旦バラすかな?
「……なんならただの武器を買うより、欠片で鉈を強化した方が良いような気も……」
「エルカ。色々と考え込んでるところ悪いけど、まず相打ち前提の狩りって部分に疑問を持ちなさい?」
「リーファ様。採取だろうが狩りだろうが、僕ならどっちにしろ死にます。死にまくります」
「誇らしく言うんじゃないわよこのお馬鹿!!」
怒られた。ともかく、検証行ってきまーす。
ーーー
あとがき
更新設定忘れてました。すんません
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