第7話 獣狩り登録 その三

前書き

設定周りなのでここ一連だけ連続投稿してます。最新話から来た人は その一 からご覧ください

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「はぁ。リーファは空気が読めないんだから」

「良いから早く」

「分かってるってば。という訳で、次は道具や採取物関係の説明よ」

「お願いします」


 塔におけるアイテム関連。ある意味で試練と同じぐらい重要な、狩りはもとより日々の生活を支える要素だ。


「まず大前提として、塔の内部に持ち込んだ物、手に入れた物は死んだらなくなります。塔の外で復活するからといって、持っていた物も一緒に復活することは基本的にありません」

「遺物としてその場に残るんですよね?」

「あ、その辺りはリーファから聞いたのね。そういうこと。稼ぎたいのなら死なないように。……偶にこんな当然のこともわかってないお馬鹿さんがいるから困るのよねぇ」

「あー……」


 都合の良いように考えちゃうのかなぁ。でもそういう人って一定数いるよね。蛮神様がそんな親切な訳ないのにさ。


「ただコレには例外が有ってね。とあるスキルを所持していると、アイテムを二つまでなら一緒に復活させることができるようになるの」

「そうなんですか!?」


 こういうとアレだけど意外だ。もしかして蛮神様って、僕が思ってるより親切だったりするのかな?


「因みに、そのスキルの名は【死せど離さず】。授かる条件は『何らかのアイテムを所持した状態で二十回以上死亡し、復活すること』よ」

「……まだ僕にはあんまりピンと来ないのですが、それは条件的に厳しい方なんでしょうか?」


 個人的には、そこまで厳しい条件には感じられないけど。

 新人は兎も角、普通に獣狩りを続けてる人なら皆授かってそう。ただ得られる効果は破格だと思うし、そうなるとやっぱり厳しい方なのかな?


「……いや普通に厳しいでしょ。二十回も死んで心折れない人間ってそういないからね?」

「そもそもこのスキル、設定された経緯に【蛮族バルバロイ】が絡んでるのよ? マトモな訳がないでしょう」

「……バルバロイ?」

「我らが神、その真なる眷属と呼ばれるほどに野蛮な連中の総称よ。死を一切恐れず、神獣との闘争を求める異常者たち。この神域に身も心も適合してしまった者たち」


 あー、さっき言ってた例外的な扱いされてる人たちか。……でもその割には、リーファ様たちの反応が苦い。蛮神様の真なる眷属なんて、普通に名誉なことだと思うけど?


「優秀な獣狩りってことですよね? 何か反応がアレですけど」

「……その辺りはちょっと複雑なのよ。まず、神官としては彼らの姿勢を否定する訳にはいかないの。アイツら、基本的に塔に篭ってるせいで人界での知名度は皆無に近いけど、実力だけなら間違いなくトップ。リーファみたいに英雄なんて肩書きを持つ獣狩りですら、アイツらの前では霞むわ。もはや半神の領域に足を踏み入れてる、正真正銘の怪物たちよ」

「半神……」


 なんというか、そこまでくると全く想像が付かない。……ああ、いやでも、確かにそうなるのかな。

 死を恐れないってことは、無限に戦闘経験を積めるってことだ。祝福だって相応の数を授かるだろうし、トライアンドエラーを重ねれば、いつかは必ず神様たちの領域に足を突っ込むことになるんだろう。


「当然ながら、バルバロイはその全員が我らが神のお気に入り。【死せど離さず】の恩寵も、とある獣に何度も殺され、その度に遺物となった愛剣を自ら回収して挑んだ一人の獣狩り逸話をもとに造られたほどだもの。この獣狩りを見習い、皆も励めってね」

「今のところ、悪いところが一切ないように思えますが……」


 蛮神様がそこまで入れ込むような人たち。獣狩りの理想として讃えられこそすれ、嫌煙される謂れはなさそうだけど。


「いやね、単純に価値観が違いすぎるのよ。死なないように注意を払って獣を狩る一般の獣狩り。自分たちの命すら手段の一つとしか数えていないバルバロイ。この時点で相容れないでしょ? そして獣狩り以外の人間も、アイツらの感覚は全く理解できないし」

「私たち普通の獣狩りだと、彼らの取る手段は狂気の沙汰。逆に彼らからすると非効率極まりない。こんな感じで対立とまでは言わないけど、お互いに理解できないことから暗黙の了解で不干渉ってなってるの」

「なるほど……」


 価値観の違い。本当にその一言に尽きるんだろうね。否定はしないし迫害もしないけど、関わり合いたくはないって感じかな。


「ま、アイツらの話は蛇足よ。ほとんどの奴らが塔の外じゃ常識人の皮かぶってるし、言われなきゃエルカ君も気付かないはずよ。だから雑学ぐらいに思っておいて」

「はぁ……」


 半神クラスの人たちが雑学扱いかぁ。変わってるなぁこの神域。


「で、話を戻すけど。塔の中では主に二つの素材が存在しているわ。一つは神獣を倒した際に得られる【輝石】と呼ばれるアイテム。そしてもう一つは塔の中の環境で取れる色々な採取物」

「輝石、ですか」


 採取物は分かるんだけど、輝石ってちょっと想像ができない。


「輝石に関しては、実物を見ないとピンとこないでしょうねぇ。ざっくり説明すると、神獣を倒すと死体が塵に変わるの。その時、手の平サイズの砕けた鉱物みたい奴が幾つか残るのよ。それが輝石」

「輝石は主に武具の強化に使われるアイテムね。武具に祝福を掛ける為の素材と言えば分かり易いかしら?」

「ってことは、僕のこの鉈も強くなると?」

「そうね。ただ施される強化は元の神獣の強さに比例するし、種類によって得られる効果も変わるの。炎を吐く神獣の輝石を使えば、炎の力が宿った武具になったりね」

「凄い……!」


 それはつまり、この微妙にヘタった鉈もいつかは物語の魔剣や聖剣みたいになると!! うわぁちょっと興奮する!!


「因みに強化は【鍛冶神へパス】様を奉じる職人なら誰でもできるよ。ただ獣狩りと同じで、個々の実力にかなり差があるけど。だから大手の工房の職人に高いお金払って注文するも良し。見習いの職人と専属契約して、一緒に育てるのも良し。好きな方を選んでね」

「……ただ注意して欲しいのは、武具の強化の種類は膨大で、その素材となる輝石の種類は更に膨大だってこと。一応、職人なら神託という形で、望んだ効果を得られる為に必要な輝石の種類や数、または今ある輝石でどんな効果になるのかとかが分かるけど。こだわると延々と終わらない沼にハマるわよ」

「沼」

「ええ、沼。だって一つの獣から五種類ぐらいの輝石が出てくるし、それも全種類が確定で出てくる訳じゃないもの。職人からアレコレ必要と言われて獣を狩っても、何故か一つの輝石だけ全く出ないで延々狩り続ける。……そんなことが頻繁に起こるのよ」

「そうそう。毎日一人か二人は死んだ顔で塔の内部を行ったり来たりしてるわね。それでも出ない時は、他の獣狩りに依頼して納品して貰ったりするし」

「……それは有りなんですか?」

「あまり推奨はされてない、って感じかしら。ただ出ない人は本当に出ないし、武具によってはメインの階層よりずっと下にいる神獣の輝石が必要だったりもするからね。そういう場合は黙認されるわ。そうした依頼も獣狩りの収入源の一つでもあるし、なんだったら役所でも買い取りしてるしね。経済よ経済」


 あー……。街の経済にもう組み込まれているんだ。じゃあ禁止も難しいね。僕も向いてなかったとはいえ商売人の家系だし、その辺りはなんとなくだけど分かる。


「……でもそれだと、お金さえあれば初心者でも強力な武具を手に入れられるってことになりません?」

「あ、それ無理。さっき言ったように、強化って武具への祝福なのね。神の祝福を宿した武具だから、担い手にも相応の格が求められるのよ。実力不足だと装備しようとしてもバチッて弾かれるのよねぇ」

「あと、自分の実力以上の輝石を強化のために依頼したら、他の獣狩りから白い目で見られて嫌煙されるから」

「無駄かつ村八分にされると……」


 うーん。やっぱり神域だけあって変に便利だ。それが楽させない方向に全力を切ってる辺り、本当に蛮神様って感じだけど。


「ま、輝石についてはこんなものね。次は採取物についてだけど、まず前提として塔の中は宝の山です。ちゃんとした鉱石や薬草は勿論、そこら辺の石や雑草、枝ですらお金になります。役所でしか買い取ってない上に安いけどね」

「そうなんですか!?」

「そうなんです。何でかと言うと、塔の中はいっそう神々の力に満ちており、大抵の物がその力を帯びているからです。石ころとかでもや錬金術の触媒や魔法薬の材料になるのよ」

「それは……」

「しかも塔の中は我らが神が直接管理しているので、獣と同じで素材が尽きることもないのよねぇ」

「うわぁ。滅茶苦茶だぁ……」


 無限の宝の山とか一周回ってドン引きです。神域じゃなかったら、塔を巡って世界規模の戦争が起きてるでしょ絶対。


「……というか、よくそれで世界が混乱しませんね。無限の素材とか供給過多になったりしないんですか?」

「一番需要があるのはここだからねぇ。それに素材も例に漏れず階層と品質が比例するから。上質な素材は数が少ない上に、獣狩りが自分たちで使っちゃうから。街にしろ外にしろ、滅多に出回らないのよね」

「石ころとかどうなんです? そこら辺は採取するの凄く簡単では?」

「その辺のアイテムは素材にだから。当然素材としての品質としては最低限だし、素材にするにしても相当な量がいるし。ぶっちゃけ買い取りは本当に稼げない獣狩りへの救済措置ね」

「なるほど……」


 獣狩りとしての本懐に専念できるように、神殿が敢えて行っているサポートってことなのね。


「とりあえずエルカ君に覚えておいて欲しいのは、獣狩りとして活動している間は最低限暮らすことはできるという点。もう一つが、稼ぎたいなら鉄鉱石とかちゃんとした素材を採取するという点」

「……鉄鉱石と石ころの見分けが付かないです」

「そこは慣れね。素材の特徴が載ってる本もあっちの方で売ってるから。祝福の本と同じで初心者用とか分かれてる奴ね」

「またお金ですか……」

「初心者用の奴は同じく救済措置で格安だから安心して。……あ、あとこれも忘れないで欲しいんだけど、役所では全ての素材を買い取っているけど、基本的に価格が変動しない代わりに安めになってるわ。高く買い取りして欲しかったらちゃんとした商会にね。オススメの商会はリーファに訊いて」

「あ、はい」


 役所は買い取りしてもあくまで福祉寄りと。商売するなら商会の方にいくべき。当然だね。


「はい。これで大体の説明は終わり。もし何か分かんないことがあったら、また気軽にいらっしゃいな。リーファでも大丈夫だけど」

「アンタさっきからちょくちょく私の方に投げようとするんじゃないわよ」

「同じ神官なんだし変わらないでしょ。なによりアンタの弟子でしょう?」

「いや違うけど!? 神官として面倒見てるだけだからね!?」

「師匠……?」

「エルカも乗らないの!! もし私に弟子入りするって言うなら、エルカより大きい戦斧を毎日振らせるからね!?」

「あ、無理です」


 僕より大きい戦斧とか、振るどころか持ち上げられる気もしないや。……いや、それよりもまず戦斧を用意できないか。

 兎にも角にもお金がいる。獣狩りとしてやっていくためにも、ちゃんとした装備を整えないと話になんないだろうし。


「リーファ様。弟子入り云々は冗談にしても、これからの方針の相談だけお願いしてもいいですか?」

「それは構わないわよ。我らが神に仕えるとして、ちゃんとそこら辺の面倒は見てあげる」

「ありがとうございます!!」


 よし。ひとまずコレで手探りからのスタートは避けられたね。……それはそれとしてリーファ様、やけに神官を強調してましたけど、そんなに僕が弟子になるの嫌なんですか? 今日会ったばかりの他人だからと言われるとそれまでなんですが。

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