第6話 獣狩り登録 その二
「次は試練を超えることによって得られる力、神々から与えられる【祝福】について説明するわね」
神域の治安についての説明を終え、神官様は次の話題に移った。
【祝福】。それは人の身で強大な力を持つ試練の獣を屠る為の武器にして、多くの獣狩りが求める人知を超えた力。
物語として語られる英雄の多くが獣狩りでもあることから分かるように、祝福は高みに至れば只人を英雄の領域へと引き上げる。……そこまで獣を狩りまくった人を只人と呼んで良いのかは謎だけどね。
「神々から与えられる三種の力。それを総じて私たちは祝福と呼んでいる。得られる手段も三つ。一つは神獣を狩ること。二つ目は神々の定めた条件をクリアすること。三つ目は神々に気に入られること」
「あ、神獣を狩るだけじゃないんですね」
「ええ。と言っても、神獣を狩ることが我らが神の定めた条件みたいなものだし、実際は二つと言っても過言ではないのだけど。ただ過程が違う分、得られる祝福もちょっと毛色が異なるのよね」
そう前置きをしつつ、神官様は三つの祝福について説明を始めた。
「神獣を狩ることで得られる力は、獣狩りとしての功績を元に与えられるもの。簡単に言ってしまえば、神々というよりも我らが神から与えられるものね。これを【アビリティ】と呼ぶわ」
「あびりてぃ」
「そう。名前の由来は神託ね」
「よくあるやつですね」
神様由来の謎単語。神託やら神話などから人間界に伝わり、世界中の人々がなんとなくで使用している。
神域ともなれば、その辺りの単語が多用されるのもさもありなんというやつである。深く考えてはいけない。
「アビリティの効果はその個人の戦闘スタイルに応じて変わるの。そこにいるリーファが良い例ね。ゴツイ武器を豪快にぶん回せるぐらい肉体が強化されたり、かなり色々なことが人体に起きるわ」
「ゴツイと豪快は余計よ」
「なるほど」
「……その納得はどういう意味かしら?」
「誤解です!」
間が悪かったのは否めませんが、そういう意味で頷いたんじゃないです! 単純にアビリティの効果で頷いたんです!
まあともかく、神獣を狩ることでアビリティが得られ、肉体的にドンドン強くなっていくと。
英雄と呼ばれた人々の超人的な逸話は、多くがこのアビリティによって底上げされた身体能力によるものなんだろう。
これなら非力な僕でも、いつかは大岩を持ち上げられるようになるのかもしれない。
「ただ気をつけて欲しいのは、戦闘スタイルに応じてアビリティは与えられるの。スピード重視のスタイルだと、あんましパワーは強化されないし、高威力の打撃技とかは与えられない。その逆も然り。だからパワーが足りないと感じても、アビリティでは中々補うことができないの。不可能ではないけどね」
「つまり、戦闘スタイルを根底から変える必要があると?」
「そんな感じかしら」
うーん。なるほど。となると、不可能ではないだけであんまり現実的ではないと思っていた方が良いかなぁ。最初のスタイルの模索が相当重要になるだろうなぁ。
「二つ目、神々の定めた条件を達成することで得られる力。これは【スキル】と呼ばれているわ」
「すきる」
「スキルよ」
聞き慣れない言葉なので……。
「話を戻すわよ。スキルは取得に条件が存在する分、効果はアビリティと違って固定されているわ。誰もが条件さえクリアすれば授かることができる、画一的な特殊能力。それがスキル」
「なるほど」
つまりアレかな? 戦闘スタイルに幅を持たせる時は、スキルを授かって色々手札を増やすのかな?
「例を上げると、一時的にパワーを大幅に上昇させたり、時間経過で傷が塞がったり、攻撃に凍結や燃焼みたいな効果を付与したりとかね」
「なんというか、まんま魔法ですね」
「むしろ魔法よりお手軽よ。元が神々の力である以上、魔法と違って魔力みたいな消費はほぼないし、それでいて効果も遜色なかったり、もしくはそれ以上だったりするし。なにより条件さえクリアすれば誰でも身に付けることができるっていうのが、才能が必要とされる魔法よりも優れているところね」
「あー、だから魔法使いの英雄って少ないんですね……」
一応、人の身でありながら奇跡に近い現象を引き起こせるってことで、人界じゃまあまあメジャーな立場ではあるんだけどね。
その割に魔法使いが主役の英雄譚とか少ないと思ってたんだけど、そういう理由があったのか。
「魔法はねぇ。悪くない技術ではあるんだけど、単純にこの神域と相性がよろしくないのよ。魔法って余程の達人じゃないと発動までに時間が掛かるから、発見即襲撃また奇襲っていう生態をしてる神獣が相手だとねぇ。それを抜きにしても、階層が上がるにつれて人の放てる威力の魔法じゃ火力不足気味だし」
「そもそも魔法使いは基本的に研究職だもの。獣狩りになる人自体が少ないのよ」
「本当に色んな意味で相性が悪いんですね……」
いわく、並の魔法使いじゃ祝福以上の効果や利便性は発揮できない。
いわく、呪文を長々と唱えていたら神獣に襲われる。並の威力じゃ段々強くなる神獣に効かなくる。
いわく、根本的に魔法使いは学者寄りで、実戦で動けるかどうかも怪しい。
「ただ勘違いしないで欲しいんだけど、獣狩りにも数は多くないけど魔法使いはいるわ。大体そういうのは魔法使いとしての弱みを克服してるから、めっちゃ強いわよ?」
「そうなんですか!?」
「ええ。魔法を肉体強化に全振り、加えて恩恵の力でそこらの獣狩り以上の身体能力を発揮したりする奴とか」
「それって魔法使いと言って良いんですか……?」
魔法使いというより、魔法が使える戦士では……?
「勿論、純粋な魔法使いタイプもいるわよ。スキルを魔法関連でガチガチに固めた魔法使いは、火力だけなら恐らく獣狩りの中でもトップクラスでしょうね」
「あ、いるんですね」
「ただ欠点として、魔法関係のスキルって、必須レベルの奴の条件が結構厳しいのよねぇ。効果が高いスキルの試練は、その分クリアするのが難しいのよ」
「あー……」
それもそうかぁ。スキルは神様からの報酬みたいなもの。そして高い報酬を得るには、相応の難易度が必要と。
「因みにスキルの効果や条件って分かったりします?」
「現在発見されてる奴を纏めたのがあるわよ。初心者用の上巻、一人前用の中巻、ベテラン用の下巻。役所の道具屋で売ってるわ」
「……商品なんですね」
「そりゃあね。組織運営にはお金が付き物ですもの。因みにこの神域では、神殿発行の【バルバ硬貨】で経済は回ってるから。換金所はあっちね」
「あ、ハイ」
後で換金しておかなきゃだね。ぶっちゃけ大した額はないけど。
「……というか、現在発見ってことは未発見のスキルもあるんですか?」
「あるわよー。全てのスキルは、神々が主神であるバルバドール様の承認を得て設定してるの。だから設定した神によっては内容や条件の神託を授けてくれたり、逆に無言で人知れず追加されてたりするのよね」
「それどうやって発見するんです……?」
「あっちの受付あるでしょ。あそこでは簡易的に神託を授かる札が売られててね。その札を使うと、我らが神から神託という形で祝福関係を知ることができるの。そこでスキルの効果や条件が判明する感じね」
「またお金ですか……」
「宗教もまた商売だから」
「それ言っちゃって良いんですか……?」
とんでもないことぶっちゃけたよこの神官様。大丈夫なのかとリーファ様の方を見ると、渋い顔で眉間を押さえていた。駄目みたいですね。
「それはそれとしてお金かぁ……。手持ちほぼないんですよねぇ」
「それはもう頑張れとしか。あ、でも未発見のスキルだったら、役所に報告してくれれば報奨金がでるわよ?」
「それはかなり先の話ですね……」
未発見のスキルとかより、まずは神獣を狩らないと話にならないわけで。そして狩り以前に、装備がおぼつかないという。
「頑張れ。本当に困ったらそこの恋愛未経験乙女に身売りしなさい。無駄に高収入だから養ってくれるはずよ」
「っ、サテラ!!」
「あら怖い」
あまりの台詞にリーファ様が怒鳴った。というか、この神官様サテラって名前なんだ。
「ま、冗談はさておき。スキルについてはこんな感じ。分からないことがあったら、また受付にきてね。それかリーファにでも訊いて。ってことで、最後の三つ目。神々に気に入られることで与えられる、【ギフト】と呼ばれるものね」
「ぎふと」
「そう。これは本当に運としか言えない。授かる方法も、効果も完全に神次第。ただ授けた神が動向を確認しやすくするだけのものもあれば、その獣狩りだけが使える唯一無二の効果だったりすることもある。逆に獣狩りからすればデメリットにしかならないものもある。そんな一方的な神々の寵愛。ある意味で、本物の祝福」
「……なるほど」
本当の意味での祝福。この神域で授かることができる、先の二つとはタイプが異なるもの。
この神域が創られる前から人界で語られるような、神々の尺度で行われる依怙贔屓や悪戯の類い。
「この三種の力を武器として、獣狩りは英雄の階を登るの。……エルカ君がどんな力を授かり、スタイルを確立するかは分からないけど、それでもこれだけは忘れないでね」
「その祝福は貴方が歩んだ軌跡であり、神々へと捧げし信仰の証明。故にどんな運命が待ち受けていようとも、恥じることなく、胸を張って堂々と天への階を登るのです」
神官様は厳かに。リーファ様は柔らかな笑みを浮かべてそう言った。
「ちょっ!? リーファ、折角の決め台詞を取らないでよ!!」
「さっき失礼なこと言ってくれたお返しよ。というか、決め台詞というより定型文でしょうよ。良いからさっさと次の説明に移りなさい」
「ぶーぶー!!」
……訂正。神官様はカッコつけてただけで、リーファ様はしてやったりの笑みだったみたい。
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