第3話 俺なんかしちゃいましたか?

キャラクターノート、そこには全12人の多分攻略キャラだろう人達の写真と紹介文、好きな食べ物から趣味に好きなデートスポットまで文字通り何から何まで載っている。さながら攻略本のようなそれは勿論俺の筆跡でもなければパソコンで打ち込まれた文字でもないが、とにかく出来がいいというかわかりやすくて、誰がなんのためにとかそんな疑問は一気に消し飛んでしまった。


「そのノートどしたの?」


「え? いいやこれは違くて……」


「なんで白紙のノートずっと見てるんだろって思ってさ」


……入間ルカにはこのノートに書いている言葉や写真が見えていないのか。こんなの読んでるの見られたら例へ設定上幼馴染でも絶対引かれると思って必死に言い訳を考えていたがその心配はなかったようだ。でも白紙のノートを無我夢中で見てんのはそれはそれで気持ち悪いな。後でじっくり見ようと今は大事にバックに入れておいた。


「ただいまー飲みもん買ってきたぜ! どれがいい?」


「炭酸じゃないやつ」


「これしかねえ後の2つ炭酸だ……」


「午後ティーじゃない、今午前だけど」


俺はペプシを渡された。コーラはあまり飲まないというより炭酸も久しぶりな気がした。いつも家で麦茶しか飲んでないから、多分それのせいだ。入学式まで時間がある、人間という理由で珍しがるこの視線に耐えながら3人で話をしていた。その会話の中でもさりげなく質問したりして少しずつ知ってなくちゃダメなこととかこの世界の常識とかを手探りで掴んでいく。


「まだ体調良くなってない? なんか挙動不審っていうか……」


「やっべ、保健室行くか?」


案の定怪しいとは思われたけど。流石に異世界に行ったとしても初日に仮病のせいで保健室の世話になるわけにはいかない、謹んでお断りした。


どうやらこの世界では古代から獣人と呼ばれる生まれついて動物の個性を持った人間が生きている。とは言っても数の少なさが原因で異端と思われ江戸時代までは非人、つまり人ならざるものとして扱われ、高い身体能力のせいで意思疎通ができる動物的労働力として扱われていたという黒い歴史もあるようだ。そんな彼ら彼女らも明治時代になったら近代化により平等……とはならずむしろ戦争の駒として扱われ始めた、どの動物の種族かにもよるがその身体能力は間違いなく軍事向けだったのだろう。


そんな絶望的状況から獣人たちを救ったのは皮肉にも人間たちが作った科学兵器だ。どれだけ馬力が凄くても戦車に敵わない、空が飛べでも航空兵器には手も足も出ない、泳ぐのが得意な獣人は戦艦の前に沈み、耳や目のいい者たちも何百メートルと離れた狙撃の前では無意味となる。たった一つの存在意義を失ったとも言えるが、それは確かに彼らが人間扱いされるスタート地点だった。


しかし現代でも未だに獣人の差別は続く、差別はされてなくても「獣人ならこれくらいの重労働余裕でしょ」と言ったケモノハラスメント略してケモハラが横行しているようだ。そんな彼らが汚されることなく社会進出するために、獣人高校と呼ばれる獣人のみが通う学校がいくつもある、獣斗第一学園もその一つだ。そして俺は獣人の幼馴染が2人もいて仲も良好という実績を買われて、獣人と人間の絆を結ぶ架け橋として特待生入学したと……思ったより暗い設定なんだな、ギャルゲーと言ったら主人公ハーレムのためのご都合設定で溢れているもんかとってそれは偏見がすぎるよな。


「新入生のみなさんはこちらに並んでください、第一体育館へ案内します!」


ああ、もうそんな時間か。気持ちはまだまだこんがらがっているけど、単純な体調面はかなり良くなった。問題なく入学式に参加出来そうだ、もうここまでくると逆に肝が座ってくる、逆に。もう半分自棄というか諦めというか、兎に角覚悟だけは決まった。女の子ハーレムだろうがゲイハーレムだろうがなんでもこいってんだ見たいな感じで図太く構えようとしていたが、そうは問屋が卸さない。


「福富元久さん、えっと……生徒会室へ案内しますね。会長様がお呼びです」


「は、はひぃ……」


へっぴり腰が過ぎるぞ俺、いいや入学早々生徒会長に呼ばれることに恐怖を覚えないのはただの危機感のないぼーっとした奴だな。そもそも会長様ってなんだよせめて敬うとしても会長さん止まりだろう。あーダメだ怖い幼馴染の2人の方は振り返っても頑張れというばかり、まあキャラクターノート曰く会長は聡明な人らしいから取って食われたりはないとして、やっぱ架け橋がなんだなってプレッシャーかけられるんだろうな。


おかしい、俺なんかしちゃいましたか?ってやつだ。いつ神様の気に触るもとい別世界に飛ばす程の大罪に手を染めたのだろう、慣れないジャンルのゲームに手を出すのってそんな悪いことか?


俺はただ、元の世界でギャルゲーしたかっただけなのに。

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