第2話 世界についてけない

念のために表札を見てみたが俺の苗字である福富と書かれている、母さんの言葉から鑑みるに俺の名前はちゃんと元久だ。福富元久という名前はそのままこの世界に来た? 何故に? こう言う時はそうだゲームの概要とかを思い出そう何かヒントがあるかも知れない。


トキメキ☆アニマルスクールのソフトケースは隠しキャラも含めて全キャラいて情報量がありえないぐらい多いが、その中でも裏の説明欄はピカイチと言っていい。たしか……


……………………………………………………


主人公は獣人が通う獣斗第一学園の高等部に人間代表として入学した特待生。


「特待生として、人間と獣人の架け橋として生徒たちと交流を深めてほしい」


生徒会長の獅子堂真(ししどうまこと)にそう言われて、個性豊かな生徒と親交を深めていく事に。攻略対象は隠しキャラ含めて男女ともに6人ずつの総勢12人、目指せ全獣人から告白されるハーレンエンド!(原文ママ)


……………………………………………………


確かその獅子堂さんも攻略キャラ。男女1人ずついる隠しキャラがいるのだけれど、彼は男サイドの隠しキャラだったはずだ。……特段ヒントというものはないな。


さて無駄話はこれくらいにして、何で俺はこんな世界に来てしまったのだろう。俺が悪かったのかゲームが悪かったのかもしくは両方、それ以外の第三者というのも否定はできない。そこに突っ立っている曰く幼馴染な2人に聞いても確かな情報は得られそうにないな。


入間ルカのほうは設定上は獣人だろうけど、俺にはそうは見えない。身長を始めとした見てくれはちゃんと普通のショートヘアな女子高生だ。一方馬場翔はわかりやすい。強烈とも言っていい存在感を発揮する縦に細く長くてそれなりに大きさもある茶色いケモミミ、デカい図体の腰に付いているやたらと長い毛が大半な茶色いふさふさのしっぽ、名前的にもどう考えても馬と見ていいだろう。でもこの図体のデカさは……競走馬というよりばん馬だな。


「大丈夫か、やっぱり俺が運んであげる、元久は軽いから運びやすいなー!」


「うお!? 何だお前!」


「昔っから本当に軽いからなールカより運びやすいのなんのって!」


「……それってどういう意味? 私が重いと言いたいの?」


「ま、まさかー! 元久は暴れたりしないじゃん? ルカも運んでやるから許してくれよ、ね?」


どう考えても墓穴を掘っているが何とかしようという熱意は伝わる。入間ルカもそれを汲んだのか50点と温情な点数をつけている、ところでいつから得点制になったんだろう。ばん馬なだけあってその足腰の強さというか馬力は馬鹿にならないようで、片方ずつに俺と彼女を俵抱きでかかえてそれでも余裕そうに走り出した。ここまで強いなら俺と入間ルカの体重差なんてほぼ誤差みたいなものだろうに。


というより結構揺れるな、割ときつめに手を回されているから落ちる心配はいらないと思うけど、そのかわり首がガクンガクンなる。軽い感じで話しかけたら舌を噛みそうだ。ひょっとして馬場翔はこのまま学校に行くつもりか……マジかよ。


「振り落とされるなよ!」


ならスピードを落としてくれとは言えずに、ただ食いしばって耐える事にした。


……


…………


………………


身体が、いいや視界が軸を失ったようにぐわんぐわんと揺れ動いている。30分ぐらい俵抱きの体型で運ばれた。しかも途中からは信号もない、山を緩やかに登る一本道で休憩なしでガクンガクンされ続けた。制服の乱れを確認することすら出来ず校門の近くでそっと体育座りになって休憩することしかできなかった。


桜が舞い散っててお城みたいな学校が見えて、意識さえ確かならそれらを堪能することが出来ただろう。俺のせいではないとは言え勿体無いことをしたなと思う。


「大丈夫? 翔がお茶買ってきてくれるから待っててね」


アイツはこんなに走ってまだパシリになれる程の余力を残していたというのか。恐ろしいものを見てしまった。あと恐ろしいのはもう一つある。この世界がおかしいのか、学園がおかしいのか、どこを見てもツノがあったりケモミミがあったり、翼が生えている生徒もいる。そうだった俺以外みんな獣人だった人間俺しかいねえのか。


「あれが特待生か……」


「耳も人間だし尻尾も生えてないよ」


「隣の女の子は海の子かな」


少しずつ定まった視点で入間ルカを見ると、太陽の光に照らされて、なんというか、水の中の魚のようにキラキラしていた。海に住んでる動物がモチーフなんかな……


全員人外だと意識した瞬間、気まずいと言うか急に手持ち無沙汰に感じて、母さんが準備してくれた中身を知らないリュックサックの中を漁る事にした。なにか元の世界に戻れそうというか、夢から覚めることが出来そうなものはないのかねと思って。筆箱に財布、あとなんか、2冊のノートがあった。メモ帳用に準備してくれたのかと思ったけど、どうやらそう言うわけではないようだ。


『キャラクターノート』と『3年間予定表』の2冊のうち、先ずは前者を見てみることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る