第12話決断
充はふく達をそのままにゼンさんに連れられて寅吉さんの部屋へと向かう。
「お、おはようございます」
「ん?充か、入っていいぞ」
寅吉さんの声に恐る恐る扉を開けた。
寅吉さんは人間の姿で机に座り何か御札の様なものを書いていた。
そして、そっと筆を置くと充の方を見る。
充は寅吉さんの前に緊張した面持ちで正座した。
「それで、気持ちは決まったようだな」
「はい、ここで…ふくとまるのお世話をさせて下さい」
充は畳に頭をつけた。
「昨日は迷っていたようだが今は気持ちを固めた様に見える。何か心境の変化でもあったのか?」
「昨夜ふくとまるが俺の部屋で寝てたんです…」
「あいつらは…近づくなと言ったのに」
寅吉さんが渋い顔をする。
「部屋の隅で申し訳なさそうに丸まってました。そんなにも自分の事を求めてくれてるのかなって…こんなにも俺を必要としてくれる事なんて今までなくて、なんか猫とか人とか関係なく嬉しくなりました」
「そうか…」
寅吉さんが寂しそうに充を見つめる。
「だからあの二人が必要と言ってくれるならここで頑張ろうかなって…それと」
「それと?」
「布団がふかふかだったので…」
「布団?」
「はい、あんなにふかふかな布団で寝たのは久しぶりだったので」
久しぶりと言うよりは…うっすらとした昔の記憶?
でも今の充には泣きたくなるほど嬉しかった。
「わかった、充の布団は常にふかふかにしておくことを約束しよう」
寅吉さんがニコッと笑う。
「はい!よろしくお願いします」
充がペコッと頭を下げると…バッ!と扉が開いた。
「「にゃー!!」」
ふくとまるが飛び込んで来て充の胸にダイブする。
「うわ!お前らちょっと待って!」
二匹に交互に顔を舐められて充は嬉しいやらくすぐったいやら笑ってやめさせようとするが二匹はくねくねと避けながら充から離れようとしない。
「二人も嬉しそうだな、では充頼むぞ」
「は、はい。でも何をすればいいんですか?」
「今は二人の事をよく知ることだ一緒に飯を食って寝て二人が何を求めているのかよく考えてくれ」
充はコクっと頷くと二匹は首を傾げて充を見上げる。
「二人ともよろしくな」
「「にゃあー」」
「ふふ」
二匹の軽い返事に充はふっと肩の力が抜けた。
「じゃあわしは仕事があるから早速二人と遊んでやってくれ」
「はい、ほらふく、まる行くぞ」
充が立ち上がると後ろを二匹がトコトコとついて行く。
「この屋敷の中なら南側以外なら何処に行ってもいいからな」
「はい」
充は寅吉さんの部屋を出ていくととりあえず自分の部屋へと戻ることにした。
部屋の扉を開けようとすると隣の部屋からゼンさんが顔をだした。
「よろしくな、お隣さん」
「よろしくお願いします」
充は苦笑して頭を下げた。
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