第10話契約

「ふくとまるが認めただけはあるな」


寅吉さんがそう言って契約書にふっと息を吹きかける。


すると寅吉さんの押した血判が形が変わってきた。


「え?えー?」


俺はそれを不思議に思い凝視する。

何度も目をこすって確認するが見間違えではないように見えた。


「あっ!もしかして手品ですか?」


「いや、よく見てみろ」


そう言われてじっと見ていると血判の形が猫の足跡のように見えてきた。


「これって…猫の足跡に見えますね」


「そりゃ猫の足跡だからな」


寅吉さんがそんな事を言うのでどういう意味だと首を傾げていると目の前で寅吉さんがあのトラネコに姿を変えた。


「と、寅吉さん!?」


何処に消えたのかと部屋の中を確認する。


「これがこの屋敷の秘密だ」


トラネコが寅吉さんの声で話し出した。


「と、寅吉さんなんですか…」


トラネコに恐る恐る手を伸ばすとペシっと前足で払われる。


「ここは猫又の猫屋敷だ。お前にはここでふくとまるの世話をしてもらう」


「「にやぁ~ん」」


二匹は俺のそばに来ると甘えるようにその体を擦り寄せた。


「ま、まさかこの二匹も…」


驚き二匹を見つめていたら二匹の耳がペタンと伏せる。

申し訳なさそうに身を縮めた。


「この子の親は車に轢かれて死んだ…それからというものこの子らは元気を無くしていたが充に会ってから少しずつ元気を取り戻した。だから充にこの子らの世話を頼みたいんだ、もし無理だと言うならここでの記憶は消させてもらって出ていってもらう」


寅吉さんが厳しい顔で話してきた。


「記憶を無くすって…本当の事だったんだ」


「どうする?」


トラネコの寅吉さんはまた人の姿に戻った。


俺は寅吉さんと寂しそうに上目遣いで見つめるふくとまるを交互に見つめる。


「と言っても俺は何したらいいんですかね?」


「とりあえずはふくとまると一緒に過ごしてくれればいい」


そう聞いて俺は考え込んでしまった。

いきなりそんな事を言われてもすぐには決断出来そうになかった…


「まぁ今夜はゆっくり休んで一晩考えてみろ、明日の朝また返事を聞かせてくれ」


「わかりました…」


俺は立ち上がり下を向くふくとまるをチラッと見る、二匹と目が合いそうになりサッと逸らして逃げる様に部屋を出ていった。


廊下に出るとフーっと深く息を吐く。

色々とありすぎて頭がこんがらがっていた…


とりあえず今はゆっくりと休みたかった。


「で、どうすることにしたん?」


「わっ、びっくりした!」


歩きだそうとすると、すぐ後ろでゼンさんが声をかけてきた。


「ど、どうするって…」


充は言葉を切る。


「ここに残るの?出てくの?」


ゼンさんは感情のわからない顔で聞いてきた。


「分かりません…俺、どうしたら。ゼンさんは…ここに住んでるって事は?」


チラッとうかがうようにみるが、人にしか見えない。


「ここに残るなら教えてあげるよ」


ゼンさんはニヤッと笑った。



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