第9話俺の部屋

「え!?」


通された部屋は和室だが前に住んでいたアパートよりも広く、家具までついていた。


小さい机に本棚、それにタンスまて置いてあった。


「ここに布団もあるぞ」


そう言われて襖を開けると布団が一組積まれている。

もう今すぐにでも住めるような状態だった。


「こんないい部屋使っていいんですか?」


「ああ、寅吉さんが言ったんだから大丈夫だ。荷物を置いたら下に来いよ。俺の部屋はこの隣の隣だ。ふく、まる行くぞ」


ゼンさんはそう言うと部屋を出ていこうとする。


「あ、ありがとうございます!」


俺は慌てて頭を下げてふくとまるを下ろした。


しかしふくとまるは部屋から出ていこうとしない、畳の匂いを嗅いで辺りを確認するように這い回っていた。


「ふーん…本当に懐いてるな、じゃあ下に来る時に一緒に連れてきてくれ」


俺はわかったと頷くと荷物をおく、と言ってもそんなに荷物はないが…


とりあえず服など出してタンスにしまった。


後の物はまとめて襖の中に置いておいた。


「よし!じゃあふく、まる行くぞ」


二匹に声をかけて抱き上げる。


二匹は抵抗することなく大人しく腕の中にいる。


下に降りるとゼンさんが腕を組んで待っていた、玄関からみて右側へと続く廊下を指さし視線を送る。


「奥の部屋で寅吉さんが待ってる」


コクっと頷いて俺は廊下を進み、障子の前に立つと声をかけた。


「失礼します」


「ああ」


障子から声をかけると寅吉さんの声がした。


中へ入ると広い部屋の大きなテーブルの奥に寅吉さんが座っている。


前へ座れと手を差し出されてふく達を下ろして座った。


「ふくとまるはこっちに来なさい」


そう言われると渋々といった感じで寅吉さんのの方にトコトコと歩き横に座った。


「では充には契約書に書名してもらう。ここでの秘密を破ると記憶を失うが問題ないか?」


「へ?記憶?」


突然の事に変な声が漏れた。


「そうじゃ、ここの事を外に漏らされたら大変だからな、もしそれができないのであれば遅くはない今からでも出ていってくれ」


「「にゃあ……」」


ふくとまるが嫌だと言うように不満そうに鳴いた。


「仕方ないじゃろ」


二匹に言い聞かせるように寅吉さんが答える。


「すみません、記憶を失うってよくわかりませんが…ここでの事を外に漏らせば罰則があると言うことでいいですか?」


「ああそうじゃ」


寅吉さんが頷いた。


仕事の上で情報の漏えいを防ぐからだろうか。


俺は疑問に思いながらも頷き返す。


「絶対に仕事内容を漏らしたりしません!ですからそれで大丈夫です」


「よし、ではここに名前を書いて血判を押すんじゃ」


「血判!?」


「なんだ?出来んのか?」


寅吉さんが顔を顰めた。


「で、出来ます!」


「まずはわしが押す」


寅吉さんはサラッと筆で達筆な字で名前を書くと指先をかじって親指を紙に押し付けた。


紙を渡され同じように名前を書く。


指を見つめて覚悟を決めると歯でガリッと噛んだ。


痛い!


見れば思いの外、血が出ている。


とりあえず急いで血判を押すと何か拭くものはないかと探るがハンカチも無ければティッシュもない。


舐めようかと思い指を見つめると…


「にゃぁ~」


ふくとまるがそばにより指先を舐めようとする。


「こら、汚いから駄目だ」


血がつきそうになり離そうとするが二人はすると避けて指をひと舐めした。


すると痛みが薄れた気がする。


不思議に思い指を見るといつの間にか傷が塞がっていた。


「え?」


俺は何度も指を確認するが傷は無くなっていた。


「なんで…」


「それが二人の特技だ、あまり人前でやらないように言ったのだが…」


寅吉さんが困った顔でため息をつく。


「あれ、もしかして足首痛めた時に良くなったのもお前達のおかげなのか?」


俺は二匹に会ったあの日挫いた足が治っていた事を思い出した。


「「にゃー!」」


二匹は得意げに鳴く。


「そうか、ありがとうな!」


ふくとまるにお礼を言うと寅吉さんが笑って契約書を手に取った。

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