第8話屋敷
寅吉さんはおじいさんとは思えない軽い足取りで土手の草むらをスタスタと歩く。
充は寅吉さんを見失わないようについて行くのが精一杯だった。
「は、早い…」
どのくらい進んだのか、何処を歩いたのかもうわからなくなっていた。
重い荷物に仔猫達を抱いてもう腕が限界に近づくと…
「着いたぞ」
寅吉さんの声に顔をあげるといつの間にか目の前に立派な古民家風の屋敷が立っていた。
「え?いつの間に?」
立派な門に広い庭、少し古げだが住むには十分な家だった。
「今日からここに住んでもらうぞ」
「は、はい!」
寅吉さんが敷地に入ろうとすると…
「あれ~?寅吉さんその人誰ですか?」
門の横からツリ目の男がヒョイッと顔を出した。
「今日から家で働いて貰う人の子だ」
人の子って…
充は引きつって笑う。
しかしここでなんか言って機嫌を損ねたくなかった。
「坂口 充。19歳です!体力には自信があります!よろしくお願いします」
ペコッと頭を下げる。
「寅吉さん、いいんですか?」
男は充をジロジロと不躾に見つめると寅吉さんの方をみた。
「ふくとまるが懐いとる。仕方ない」
ふくとまる?
俺は腕に抱いた二匹をみた。
「「にゃ~」」
二匹は挨拶をするように鳴く。
「本当だ…」
男は驚くとスタスタと近づいて来た。
顔がくっ付くほどに近づくとクンクンと匂いを嗅いでくる。
「あ、あの…」
男に匂いを嗅がれても嬉しくない…一歩下がると男は一歩近づく。
「何がいいんだ?確かに少しいい匂いがする」
屈んで今度は手の匂いを嗅いできた。
「いい匂い?」
自分の手を鼻に近づけると微かにかつお節の匂いがした。
「ああ、これかな」
充は残ってたかつお節を鞄から取り出した。
「うおっ!かつお節じゃないか!」
男は瞳をカッ!と開いた。
気持ち黒目部分が細くなった気がする。
「よ、よかったらあげます。お近づきのしるしに…」
充はかつお節の袋を渡すと…
「お前、良い奴だな!俺はゼンってんだ、よろしくな!」
かつお節を奪うようにひったくると充の背中をバンバンと叩く。
「痛っ…くはないな」
すごい勢いに驚くが痛みはなかった。
なんかクッションでも着いているのかと思うような手のひらだった。
「ゼンさん、よろしくお願いします」
ゼンさんに頭を下げた。
「ゼン、なら充を部屋に案内してやってくれ。わしは契約の準備をする」
「はいはい!わかりましたー」
ゼンさんはかつお節を大事そうに懐にしまうと充を屋敷の中へと案内した。
寅吉さんと中で別れて充は2階へと通される。
廊下の奥を進み一番端の部屋へと向かった。
「今日からお前の部屋だ」
ゼンさんがニカッと笑って扉を引いた。
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