第7話

「はぁぁ」

 団長のため息。そしてノックの音。

「失礼してもいいかな」

「なんだ。先生か」

 部屋に入ってきたのは眼鏡をかけたひょっろっとした男。

「随分とお怒りみたいじゃないか。頭に血が上ると健康に悪いよ」

「わかってるなら聞かないでくれ。あぁ、お前、もういいから反省文書いてこい。書けたら関連組織に謝罪周りだぞ」

「了解しました」

 そう言ってピンと背筋を伸ばした団員は部屋の外に。

「まったく。あぁいう新人は我々の相手は国民だということを理解していないから困る」

「しかし、今回はなかなか大物を当てたみたいじゃないか」

「その件の報告なんだろ?聞かせてくれ」


 部屋に置かれているソファに腰を掛けて医者は手元の書類を開く。

「正式な報告書は別で上げることになるから、とりあえずの速報みたいなものだと思って欲しい。最初に御者の方」

 ぺらりと書類を一枚めくる。

「外傷はあるが全部死後、おそらく横転した際についたものだ。それ以外の外傷はないからおそらく自然死だと思う。一応毒物の検査をしているがポケットに心臓の薬が入っていた。馬車の上で発作を起こしたんじゃないかと」

「なるほど」

 馬車の上で発作を起こして馬を制御できず暴走、という事件を個人で受け持った覚えはないが、ほかの騎士団との会合で同様の事例があったと聞いたことはある。

「問題は荷台の荷物だ。死体の盗難か?」

 医学実験や胡散臭い魔術などのために死体を盗むの事件が首都にはある。

「わからない。そこが問題なんだ」


「まず数が多いから一人じゃあの人体パズルを組み立てるのも時間がかかる。正式な人数もまだわからん」

「補助職から人員を出すよ」

 騎士団の補助職、つまり医療や事務、装備関係の後方支援のチームには医学の心得がある人間も多い。

 部門のトップに就任した魔法使いは偉ぶってどうも扱いにくい奴だからあまり頼みたくないが、あいつも医者の資格があるはずだ。

「もう頼んだんだが、使い物にならん。新人をよこしたがげーげーはいてばっかりだ。文句言ったら偉い奴が来たが、そいつはそいつであまり使い物にならん」

「はぁ。しかしそういわれてもなぁ。偉い奴って魔法使いのトップだろ?あいつは医者の資格も持ってるはずだが」

「生きてる人間を見るのと死体を組み立てるのは違う。だから僕に外注しているんだろう」

 それもそうか、と団長は納得。

「しかしそうなるとうちに言われても困る。知り合いか同業に支援を頼んでくれないか。手間賃がいるならこっちから出す。いろんな所から早期解決を求められてるんだ」

「まぁわかったよ」


「そういう状態での報告だが、まず死体を掘り起こしたものってわけじゃないと思う。一部に防腐処理がなされてるが、されてないものもある」

「つまり殺しか?」

「そうとも言えない。病院あたりから盗んだものかもしれない。ただ殺人も視野に入れた方がいいんじゃないかというのが個人的な意見だ。そして多分だが、切った人間は医学の知識があると思う」

「死体をバラバラにするのに学力はいらんよ。いるのは根気だけだ」

 今まで何回かバラバラ死体とその犯人を見たことがある団長の意見。

「そうじゃない。切り口を見ると医者が使うような道具を使ってばらしている。標本でも作ったみたいだ。まぁ素人が古道具屋で買った医者の道具を使ってるだけかもしれないが、何かしらの心得はあるはずさ」

 なるほど。

「被害者の数だが、死体の足を見ると5人分くらいじゃないかと思う。たださっき言った通り、多すぎて組み立てられてないんだ。それに一部だが防腐処理されてるあたり、標本も混ざってる可能性がある。正式な報告を待ってくれ」

「つまり」

「まだよくわからんってことだ。すまないね」

 団長の言葉にそう返す医者。

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