第2話

「そこの馬車、止まってください」

 ドーリーは街角でそういった。

「また検問?なんかあったの」

「騎士団の検問ですが、何を調べてるのかは俺も雇われなんでよくは知らんのですよ。すいませんね」

 今日の仕事は騎士団の市中取り締まりの下請けの仕事。

 

 帝国の首都ではいろいろな理由でいろいろな組織の検問が行われる。

 密輸対策、販売に免許がいる製品の密売、泥棒、なにかしらの事件、よくわからない税金関係、その他もろもろ。

 この国はよくわからない組織が山ほどあって、その代表機関が首都に集まっている。そしてよくわからない権限を分配している。

 おそらく皇帝陛下もすべてを把握していないだろう。

 それら組織もそれぞれ法律やら慣例やらなんやらに従ってやるわけで、正直やってる本人達もよくわかってないことがある。

 ドーリーもその口。どっかの騎士団が行う検問で人が足らないということで募集されていた仕事を請け負っただけで、この検問が何を目的としているかなどはよく知らない。


「面倒だねぇ。もうちょっと減らないのかい?」

「首都の三大名物はお役所仕事と検問と貧乏人ってな具合ですからね。下請けの俺じゃなくてお役人にいってくださいよ」

 そう言ってドーリーは馬車のサイズを測る。

 よくわからないが、測ったサイズごとに決められた紙を手渡して待避所に誘導するのが本日のお仕事。

「それじゃこの紙持ってあそこのテントの前に行ってください。そこで騎士団の人間から説明があると思うのでそちらで説明してもらってください」

「はいよ。あんたも大変だね。嫌味言われたりするんだろう」

 御者はそう言って馬に鞭をいれ馬車を動かす。


 ちなみに選ぶ相手は荷馬車であれば適当でいいとのこと。

「なんの意味があるんだか」

 そう言って次の馬車を止めるために旗を振る。

 馬車の前で立つのは危険だ。誰でも知ってる。


「君、交代だ」

 テンポよく馬車を止めていたドーリーに話しかける銀髪の騎士団員。

 かなり若いから白髪ということないだろう。

「はい。次は何を?」

「しばらく休憩しなさい。疲れただろう」

 確かにこの立ち仕事、結構疲れる。

「本当はダメなんだが、テントに水と食べ物があるから食べなさい。少し経ったらまた変わってくれ」

「ありがとうございます」

 若いくせに偉そうな口を利くやつだが、下請けに対しても気が利く。いい人だ。

 そう心の中で思って、言われた通り待避所に行く。


 屋根だけがある大きな仮設テント。

 そこに合った椅子に座るドーリー。

 食べていいと食べ物というのが口が乾く菓子の類。

 それを食べる気にはならなかったので少しだけかじってポケットに入れ、用意されているお茶を一気にを飲んだ。

「お疲れ様です」

「ありがとうございます」

 それを見た女性の騎士団員がお代わりのお茶を入れてくれた。

 金髪で若いかわいらしい女性。どうも前線働きをする感じではない。

 というより周りの騎士団員は新人か普段後ろの方で働いてるような事務員だらけだ。

「この検問はいつまで続くんでしょうか」

「夕方までと聞いてますが、特に問題がなければ早めに切り上げることになるかと思います」

「はぁ。何のためにやってるんですかね」

「税金関係とかなんとか、すいません。私もよく知らないんです。応援で来て食べ物なんかの準備をしているだけなので」

 そう言ってかわいらしく笑うのでドーリーも笑ってしまった。

 だが考えてみると、やってる側ですら何が目的なのかよくわからないまま検問をやるんだ。そりゃ検問が減るわけがない。

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