第16話 芦ノ湖の中でセックス
サオリは背の低い女だった。将棋の駒のような輪郭の顔に、日本人らしい低い鼻、冷たい蛭のような血の気のない唇、そして優し気な光を宿した、大きな眼を宿している。
夜、富士山の麓にあるキャンプ場跡地のようなところで一夜を明かすことを決意した。それは芦ノ湖の湖畔に作られたそのキャンプ場には、つい数年前まで営業していた管理棟がほとんど壊れずにその形を保っており、中に入ってみると灯油をたっぷり入れたタンクや、ストーブ、そして腐りかけた薪などがあちらこちらに散在していた。これは使えそうだ。なにしろ、この世界にもはや文明はなく、どのようにして冬を過ごすかを真剣に考えていかないと、いかに暖かい地方に移住したとはいえ寒波が襲ってきた瞬間に凍え死ぬのは必至だからである。このキャンプ場に限らず、今もなお残存しているそこかしこの家や施設に、燃やされないまま残っている燃料や電気が無くても使えるストーブなどがたくさんあるのではないかと、俺は考えた。だとすれば、これから生まれてくる子供たちの命を守るためにも、冬が来る前に暖がとれる体制を整えておかなければなるまい。
俺とサオリ以外の、7人の女たちはすでに眠っている。世界は冷たい川底にある石の中のようで、生命を感じない異様な静けさに包まれ、豊潤な光の穀物を実らす夜空と、日本で一番高い三角錐とのあわいから月がため息とともにその姿を見せた。月光に照らされて、サオリの顔は聖画の中の白人の美女のように透き通って、淫蕩な情欲をかきたててくる。
「お風呂はいる!」
唐突に宣言すると、来ていた服をパパっと脱いで彼女は裸になった。月光に照らされたサオリの裸体は美しかった。闇の中で彼女の乳房だけが浮き上がってきた。その谷間は深く淀んでおり、そこからは桃の香りがする。体液と、女の情欲の混じったにおい、桃の香りが芦ノ湖の水面に漂い、内部にいた鯉どもが、欲望に駆られてばしゃりと跳ねる音がする。
ちゃぽちゃぽちゃぽ・・・
背中を向けた彼女の、腋の下から遠慮がちに顔を出した乳房が、水面のきらめきの中に溶け込んで私をいざなう。女の割れ目は見えぬ。広大無辺な闇の中で、その匂いだけを頼りに、じゃぶじゃぶと水の中へ入ってその深淵、その窪みを掴もうと手を伸ばす。
「んもう、くすぐったい」
触れたところは腹であった。内臓と皮下脂肪のやわらかな肌触りに興奮した俺は、彼女の脇腹を濡らした手でまさぐり、その耳を甘く噛んだ。彼女の腹には湖水が塗られ、月の光を反射させてキラキラと光り、女の中にある大きな創造と生命の迸りを予感させるがごとく、俺の股間に刃を向けてくる。
むちむちした脇腹から、徐々に、徐々に、上の方へと手をまさぐらせる。みぞおちへ、谷間へ、そして、真紅の牡丹の上へ、俺の指がかすかに触れたと同時に、女は「んっ」とくぐもった小さな声を上げた。耳を甘噛みし、期待に応え、その真紅の乳頭の上へ、指は淫蕩な旋律を奏で、その伴奏の到来を待つ。その伴奏、ん、あ、いやっ・・・桃色声楽。鯉がバシャリと跳ねる。どこかでフクロウの声が聞こえる。喉の奥まで締めあげたような、女の哀しく、美しい喜悦の声が富士山の麓の方へ溶け込み、消えてゆく。
「ちょうだい」
女は大胆にも俺のいきり立つ棒をぐいっと握り、俺の眼をまっすぐからきっと見つめてきた。その唇がイソギンチャクのようなたわわな優しさを持って俺の唾液を受け入れる時、女の鼻の穴から強烈な女性ホルモンの香りがした。まぐわいを遂げる二人の静かな舌の音だけが、静寂した夜の空気を振動させてゆく。女の中の何かも、その振動に答えて共鳴してく。あ、だめ、、そこは待って。
愛液に塗れた指を入れる。嬉々として答える括約筋の、しびれるような脈動が俺の無骨な指をきゅっ、きゅっ、とリズミカルに締め上げ、射精を期待してダンスを踊る。だがそなたの中にあるのは男根ではなく、無骨な指、これは申し訳が立たぬ、お詫びのしるしにこれを受け取って欲しい。ざらざらしたところを人差し指の腹で探り当て、律動的で、規則的な肉圧を加えていく。くっ、くっ、くっ、女の身体がよじれる。柔らかな太ももが俺の手をゆっくりとじんわりと包み込み、やがて信じられない力でふさぎ潰してゆく。女は目をぎゅっとつぶり、何かに耐えるような、美しい淫らな表情をしてその拷問に耐える。えん、あん、ら、言葉にならない桃色の声楽が、俺の耳元で甘い吐息と共に奏でられるとき、俺の肉棒は史上最高に怒張し、我慢の限界が訪れ、後ろの方からその割れ目の中に差し込んでゆく。
サオリは腰が抜けていた。乳房と左の太ももを掴んで彼女を岸辺にあげる。頬にキスをすると、彼女はいやいやをする。なぜかその顔は赤く腫れあがって見える程の羞恥に膨らんでいた。処女喪失の美しい哀しみと期待が、一人の浅黒い女の正中を駆け巡って消えていったその瞬間に立ち会ったときに、男が見るものは、きわめて無機質的な、脈動を感じさせぬ、水晶のような双眸と強烈な女としての香りであった。
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