第3話 体育勝負?上等だ! 第一試合 握力対決
あの日から数日。
俺はさっそく令央からの挑戦を受けていた。
「シバさん!今日からよろしくお願いします!」
時刻は12:00。
天井のライトと窓から差す日光に照らされた体育館にて、俺と令央は対峙している。
周囲にはなぜか人だかりができているが気にしない。
俺の目に映っているのは勝負相手のコイツただ一人。
言っておくがホモ的な意味ではない。
「約束通り逃げねぇで来たか。しかし、初っ端からこの俺に「体育」で勝負だなんていい度胸してるじゃねぇの。」
ぶっちゃけ俺の方が逃げたい気分だが、どんな勝負事も受けて立つと宣言してしまった以上引き返せない。
「おい、シバさんと勝負するってのはアイツかよ。どこのどいつだが知らねぇが…よりにもよって体力で張り合おうだなんて馬鹿じゃねぇのか。ボロボロに打ち負かされんのが関の山だろ。」
「馬鹿野郎!お前は何も知らねぇからそんな事言えるんだよ!アイツは…半寺はな…そのシバさんに認めてもらうべくエグい修行を積んだんだぜ!」
「そうだそうだ!毎朝ランニング40kmは序の口、曜日ごとに様々な格闘技道場に足を運び、その帰りに150kgのベンチプレスをこなしてきたやべーバケモンだ!流石のシバさんもヤバいかもしんねぇ!」
「まじかよ…3日前「死死斬(ししざ)」が壊滅したと聞いたんだが…まさかアイツが…」
「あぁ、信じらんねぇかもしんねぇがアイツだ。警察が見つけた時には下っ端共が壁に突き刺さり、警察に連行されていたボスの「寝眼悪(ネメア)」は顔が真っ青になって…うわ言の様に「はんでら…れお…」と口をパクパクさせてた。奴をあんな目に遭わせられんのはアイツしかいねぇよ!」
………………………………………………。
ヤバいなんて話じゃねぇ。こんなん尚更勝てるわけあるかボケ。
「死死斬」って警察ですら何度も返り討ちにしているやべぇ不良チームだぞ。
俺と舎弟共が夏休み丸々潰してでも戦争してやっとこの街から追い出せた超強敵だぞ。
あいつらの言うちょうど3日前「死死斬」が潰れたって血相変えた舎弟から聞いた時は目ん玉飛び出るかと思ったわ。
マジで今の強くなったアイツならどれもやりかねねーから信憑性あるんだけど。
もう余計に逃げ出したくなったわコノヤロー。
…アイツに殺されかけてから、弱気になっちまったな。俺。
「準備は良いっすかー!お2人さん!」
「こっちはいつでもバッチリだぁー!」
俺の舎弟の「貞門(ていもん)」と「分場(ぶんば)」が準備完了コールを叫ぶと、周囲の野次馬共から俺と半寺への応援、早くしろと騒ぎ立てるざわめきが出てきている。
改めて、もう引き返せない所まで来てしまったのだと思い知らされた。
「あたぼうよォ!おい貞門!最初の種目だ!」
「わかったっす!えー、最初の種目は…握力勝負です!」
よりにもよって最初の種目それかよ…
怪力乱神と化したこいつ相手にパワー勝負とかないわー。
「最近現れた謎のダークホース…いや!その暴れぶりはもはや眠りから覚めたライオン!その実力たるやいかにっ!という訳で、まず最初は令央クンの番だァ!」
『キャーーーッ!』『令央クン頑張ってー!』『やったれー!令央!』
『オオオオーッ!』『シバサンやっちまえー!』『兄貴ィ!』
キャーキャーと美人ブサイク問わず女子たちが令央に声援を送っている。
羨ましいわコノヤロウ。
こっちなんてウオーウオーとむさ苦しい野郎のヤツしか貰えてないんだけど。
まあ何もないよりはマシか。
そして間もなく、令央の表情が先程ギャラリーに送っていた爽やかスマイルから、闘志満ち溢れる漢の顔つきと化した。
ヤツは何も言わず、力が込められた手が握力計を握りしめる。
果たしてどれぐらい出るんだ…?
分場がノコノコと近寄って計測結果を見るや、一瞬固まってから叫ぶ。
「…半寺 令央クンの結果は……300kgですッ!す…すごい…!それ以外の言葉が思いつかない程すんげぇ記録でオラおったまげただよォォォォッ!」
『ドエーーーーーッツ!?』『さ、300kgーーーー!?』
………………。
人類の握力のギネス記録って…確かスウェーデンのマグナス・サミュエルソンさんの192kgでしたよね?ガキの頃読んだギネス世界記録の本にあった気がするんだけど。というか握力計も握力計であのパワーによく耐えたな。
最近の良い子がよく知ってるゴリラの500kgには及ばないとはいえエグいっすよ。
俺という男はなぜか呆気にとられるとつい豆知識を心に思い浮かべてしまうのだが、それは何故だか自分でも未だに分かっていない。
しかし、この俺が呆気にとられた…つまり「ビビらされた」というのは事実。
ここで恐怖に吞まれてなるものか。99%負け戦になるだろうが、媚びぬ退かぬ省みぬ。
俺はやってやるぞォォォォォォッ!令央ーーーーーー!
『ググッ!』
ありったけの力を込めた右手で握力計を握りしめると、ミシリミシリと手に感覚が伝わりだした。
握力計が壊れはじめているのか、俺の手にダメージが入っているのかは知らん。
火事場の馬鹿力的なパワーでアイツを超える記録を叩き出せればいい!
『シバの兄貴ー!いけー!』『シバさーん!ぶっちぎれー!』
「うがぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!」
(ふぅ、今ので全力を出したな。
はてさて記録は…
………………へ?数字が出てない…記録なし?
ちょ、ちょっと待ってくれ!もう一回やり直させてくれ!
リセットボタン!リセットボタン!)
記録が出なかったという事実に俺は焦った。
だが悲しいがな、いくらリセットボタンをポチポチ連打しても反応は全くない。
先生助けて。うちの握力計ちゃんが息をしていないの。
というか今気づいたけどうっかり電源入れ忘れてただけだった。
アイツの記録がいくらとんでもねーもんだとはいえまさかの凡ミスで判定負けという醜態を晒すわけにはいかないが、時間的にこっそり電源をつけ直す余裕も無さそうである。
泣きの一回でやらせて貰うという手もあるが、男としてみとっもないのでその手も使えない。
向こうからやってくる分場の足音が、敗北の運命を伝えるカウントダウンに聞こえてくる。
つくづくメンタル弱くなったな。俺。
「シバさーん。結果はどうだかー?どれどれー?…記録なし…だよ。」
はいはい俺の負け。
まぁ次で挽回してやるから良いだ________
「なんと、握力計がうんともすんとも言わねぇだ!シバさんは握力計をぶっ壊しちまっただよー!」
『ええええええええええ!?』
『嘘ぉぉぉぉぉっ!?』
『これが番長の底力かっ!?』
………………はぁ?
お前ら何言ってんの?
何あのアホぽっちゃりの事信じちゃってんの?ねぇ?
「………!」
だから令央!お前は信じすぎ!
ちったぁ疑え!抗議の一つくらいして良いってこんなガバガバ判定!
「二人共凄まじい結果でしたが〜!この勝負!握力計を破壊してしまった佐花 シバさんの勝ちです!」
『うぉぉぉぉぉーっ!』
『流石だぜーっ!佐花さん!』
…………………。
「流石ですね!シバさん!次も全力で戦わせて頂きます!」
…………………。
「…おう。望むところだ。」
かくして、悪夢の体育勝負の第一ラウンドは(不服ながら)俺が勝利を収めた。
だがしかし…残りの「2種目」はこんなミラクルが起こりうるという保証はない。
それでも…俺は男として、兄として、学園最強の存在として戦い抜く!
かかってこいやオンドレェ!
「貞門。次の種目はなんだ。」
「えー…2回目は、走り幅跳びですぜっ!」
ヤンキー兄貴はチート義弟を認めないっ! 消毒マンドリル @ETEKOUBABOON
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