第2話 これで諦めてもらおうかと思いきや…

 拳の連撃と地面に叩きつけられた事によるダメージに耐えつつ、俺はアイツに最後の大勝負(とは名ばかりのハッタリ)を仕掛ける。

 ケンカで勝てねぇならオツムで勝負だ。

 北○の拳のジ○ギみたいに何使おうが結果的に勝ったやつが正義なんだよ。


 「お前の拳はな、力みすぎてんだよ。だから外側を強く叩いてるだけで中に全く届いちゃいねぇんだ。」

 「…………。」

 「そんな下手なパンチなんぞこの俺には全く効かねぇな。そんじょそこらの小学生と大差ねぇ。」


 いえ、嘘です。メッチャ効いてます。

 腹に一発貰った時なんかアバラをぜんぶやられたのかと思うくらい響きました。

 そんじょそこらのガキと変わらないとは申しましたが、ガキはガキでも1000人が同時に体当たりしてきたのと同じぐらい威力ありますから。


 「こんなもんは戦いとは呼べない。よって、お前はまだまだヒヨッコ…奈良と付き合う資格なんぞない。」


 確かにエグすぎてあんなの戦いじゃない。そういう意味じゃ嘘は言ってないぞ俺は。

 こいつならまずしないとは思うが奈良がDVされても助けに行ける気がしないわ。そんな風な考えが浮かんでしまう自分にまたしても情けなさを覚える。


 「そう…ですか…」


 俺との実力差を(勝手に)悟ったようで、令央は敗北を受け入れるかのように声のトーンがか細くなり、勇ましかった肩もガックリと落ちていた。

 おそらく今の攻撃は全力だったのだろう。まったく運が良いんだが悪いんだが。

 でもあまりにしょんぼりしすぎてて可哀そうだ。

 俺との約束通り努力しまくった末に、メチャクチャイケメンになって戦闘力も俺より高くなって帰ってきたんだし。

 なんか一つフォローを入れてやりたいな…

 だったら普通に交際認めりゃ良いという話になるんだが、あの理不尽すぎる決着は俺のプライドが許さない。


 「…。」

 「おい、令央。いつまでボーっとしてやがる。俺は「付き合う資格はない」とは言ったが、まだ「俺に挑む事を諦めろ」とは言ってねぇんだ。」

 「えっ?」

 「兄貴…?」

 

 とりあえず…奴には希望を持たせておいてやろう。

 まだまだチャンスはあるって事で、俺に何度でも挑める…って、あっ。

 何言っちゃってんだ俺ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!

 おいおいおいおいおいおいッ!

 またあのバケモン令央に恐ろしい目に合わされるのはゴメンだと誓ったばかりなのにッ!

 何また機会作っちゃってるワケ!?ねぇ!?

 まぁ何はともあれ言った事は言った事だ。何が何でも丸く収める!

 

 「決闘ならいつでも受けて立ってやる…と言いたいところだが、今からお前が修行して俺に勝つには長い時間がいる。俺は奈良の奴が今すぐにでもお前と付き合いたいと思ってるのを知ってるんだ。だから、モタモタと待たせたる訳にはいかん。」

 「…たっ、確かにそうだけどよ…兄貴、何が言いたい。」


 俺があまりにベラベラくっちゃべるせいか、不審に思った奈良が割り込んできた。

 こいつは令央より少しカンが良いから下手にボロは出せない。


 「つまりだ、俺と勝負するのは喧嘩以外にしろってんだ。」

 「えっ?」

 「ハァ?」


 令央が素っ頓狂な表情、奈良が呆れた表情になるが俺は構わず続ける。


 「おい、令央。お前は根性と喧嘩以外でも男を磨いていたそうじゃねぇか。だったらそれでも挑んで来い。喧嘩だけが男じゃねぇんだ。」

 「でも兄貴はさっき『男ってのは強さが全てだ』って言ってなかった?」


 ギクッ!

 ボロを出さないようにと言っておきながら早速出しちまった!


 「良いか奈良、さっき言ったように強さってのは喧嘩だけじゃない。頭が切れる、センスがいい、場を和ませられる…といった人間の良い所も「強さ」なんだ。」

 「それを言うなら「強み」だろ…」

 「とにかくだ、令央のやつはお前と俺の為に必死こいてありとあらゆる面を磨きまくって色々な「強さ」を引き出してきた訳だ。それはアイツの努力を何度も見届けてきたお前ならわかるよな?」


 依然としてキナ臭いモノを見る冷たい目で睨まれ続けているので、いたたまれない気持ちになりそうだ。

 ぶっちゃけ人生でこんなに落ち着いてられなくなる日なんて経験したことが無い。


 「あぁ、分かる。体力付けるのに毎朝トラックタイヤ引きずって走ってるのを見た時は信じられなかったぜ…」

 

 ト、トラックタイヤ!?

 確か大人一人とほぼ同じぐらいの重さだった気がするが。

 俺が中坊の時に入ってた空手部でもやったが、俺らが引きずらされたのはアレより一回り小さい普通車のタイヤだったぞ…

 モヤシだった頃のアイツのどこにそんな力があったんだか…

 

 「分かってんなら話が早い。喧嘩こそ合格点に行かなかったが、それだけで見ちゃあ必死に頑張ってきたアイツに申し訳ねぇ。だからこそ俺はアイツの他の「強さ」も試してやることにしたのさ。」

 「なるほど。タイマンやる前の兄貴にはそんな考えあるようには見えなかったけど、なんやかんやで考えてたんだな。」


 な、なんとか納得してもらえた…

 実際何も考えないで、喧嘩だけで決着つけようとしてたなんて言えん…

 あんなにハラハラさせといてあっさりぶっ飛ばされたなんて拍子抜けすぎるし、なんてったって兄としてのメンツに関わる。

血の繋がってる方は勿論だし、義理の方もそうだ。

 おっと、奈良と少し話し込んでしまって肝心の令央を放ったらかしてたな。

 そろそろ話しかけてやるか。


 「お前にまだまだチャンスはある。奈良の事を諦めたくないんだったら、お前の持つ「強さ」をありったけ俺にぶつけて来い!どうだ!」

 「……………ありがとうございます。シバさん。まだ僕は奈良さんの事を諦めたくありません!そのお言葉通り、何度でも貴方に挑ませて頂く所存です!」


 俺の激励を受け、気持ちを持ち直した令央が俺に力強く決意を表明した。

 なんだかんだで素直で良い奴なんだよなコイツ。

 奈良と付き合う事を認めようかなと一瞬思ったが、ピュアすぎて騙されやすそうなのでGOサイン出すのはやっぱりやめだ。


 「うむ!良い返事だ!俺はお前の成長を見れることを楽しみにさせて貰うぜ!じゃあな!」

 「はい!」


 悠々と去るように、俺はその場から撤退した。

 喧嘩生活で鍛えた根性ですら、ずっとあのバケモンの相手をするには力不足だ。

 さらに最後の最後で令央の闘志を煽るようなことを言ってしまったのが悔やまれるが、結果的に(確実に瞬殺される)喧嘩以外で勝負ができるようになったので良しとしよう。

 さぁて、これから妹に馴れ馴れしく付きまとった事、学園最強の俺にトラウマを植え付けた落とし前を付けさせてもらうぜ!

 覚悟しろ!令央!

 …もちろん喧嘩以外でな!確実に俺が負けるから!

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