ヤンキー兄貴はチート義弟を認めないっ!

消毒マンドリル

第1話 成長し過ぎた義弟

ー男子、三日合わざれば刮目して見よー

『三国志演義』より




 

「お久しぶりです。シバさん。そして皆さん、改めて出直させて頂きました。」


 校舎裏にて。

 目の前にいる、すらりとした長身の美青年は俺…【 佐花 シバ(さばな しば)】に対して丁寧に頭を下げてきた。

 大物感溢れるオーラを放っており、明らかにタダモンではない事が俺の体にビリビリと伝わってきている。

 こんな得体の知れない奴に対する縁など作った覚えはないが…

 後ろでコイツを見守っている金髪褐色肌のヤンキー娘を見て、その正体を俺は確信した。


 

 

 「お前っ!?令央(れお)かっ!?」


 


 【半寺 令央(はんでら れお)】。

 後ろのヤンキー娘…俺の妹の【佐花 奈良(さばな なら)】とベタベタしてやがる男だ。

 俺の知るアイツは喧嘩、勉強、芸術、コミュ力…何から何までダメダメな冴えない奴な上、性格もヘタレでとことん頼りない野郎だ。

 ぶっちゃけドラえ〇んのの〇太の方がマシである。

 本来奈良はそんなモヤシ男なんぞ大嫌いな性分なんだが、自分にアタックしてきた根性を気に入って付き合う事にした。

 それでなんやかんやで良い関係になったあの二人は、一年前に俺に対して正式な恋人になる挨拶をしに来たのだが俺は当然認めなかった。

 あんな弱っちい奴が奈良と恋人になるなんぞ100年…いや、1000年経とうが10000年経とうが許さない。

 そして何よりも令央の奴には「男らしさ」のカケラも無かったのが最大の問題点だ。

 気遣いもロクに出来ず、センスもダサいわ、挙句の果てにはいつも奈良に守られ、助けられてばかりいやがる。

 男は女を守ってナンボだろうが!逆だ逆!

 という訳で、俺に認められなかった令央の奴はこう言った。


 「わかりましたお義兄さん。では………奈良ちゃんに相応しい男になってからまた出直します!今日から毎日努力しますから!」

 

 これを言われた当初は口先だけのセリフかと思った。

 しかし、馴れ初めが新葉の奴が根性を出して奈良へ仕掛けてきた事から始まっている事を考えれば、奴の言う事は本当かもしれないと思いその言葉に賭ける事にした。


 「分かった。それじゃあ1年経ったらまた俺の所に来い。なんだったらお前から呼んでも良い。それまでせいぜい男を磨くんだな。」


 奴との会話はこれっきりで、最近は見かけなかったもののたった1年でここまで立派になるとは思わなかった。

 つーか、奈良(165cm)と同じ背丈だったのに俺(180cm)よりも少し高くなっていやがるのは驚いた。メチャクチャ背が伸びたのに加えて顔まで垢抜けた美形になってりゃわかんなくて当たり前だこの野郎。

 …過去を思い返しているのはここでやめにして本題に入るとするか。


 「久しぶりだな。令央。一応見た目だけは満点だが…それ以外の部分を見極めさせて貰う。」

 「はい。よろしくお願いします。」

 

 一年前は妹を上回る「不良」の俺を見てへっぴり腰に震え声でビビっていたのに、今は堂々と落ち着いて返事をしている。

 うむ、勇気も百点満点だな。

 しかし本番はこれからだ。


 「おい、お前。今ここで俺とタイマンしろ。」

 「えっ!?」


 俺の提案に、奈良が驚愕の声を漏らす。

 だが俺止めるつもりはない。


 「兄貴!…やめ…ろよ。アタシは兄貴にも、令央にも傷ついて欲しく…ないんだ。」

 「黙ってろ、奈良。コイツはいわば令央の奴に奈良を守れる力があるかどうかを確かめる為だ。」

 「で、でも……!」

 「いくら見栄えが良くたって、お前を守れなる力がなきゃ意味無いだろうが。それに男というのは強さが全てだと昔から決まってんだ。」

 「兄貴…。」


 いつもの強気な態度を失くし、心配しだす奈良。

 この時ばかりは年相応の女子らしくなって可愛い…と思ってしまう事に申し訳なさを覚えた。

 一方の令央は覚悟を決めたのかすっかりやる気になってやがる。

 何かの構えを取ってやがるのが生意気だが…面白れぇ。

 男はそれぐらい根性がないとな。


 「受けて立ちます!シバさん!」


 俺は、俺が認めた強さのある男にしか奈良を任せたくない。

 さァ、令央!俺から奈良を勝ち取ってみろ!

 

 「さぁかかって来い!令央!」

 「はい!はぁぁぁっ!「獣王拳」ッ!」

 「……………。」


 俺の掛け声とともに、令央は地を蹴り俺に大きく距離を詰めて拳を放つ。

 だが、そこは曲がりなりにも多くのケンカを経験してきた俺だ。

 こんなヘナチョコパンチ余裕でかわし…


 『バゴシャアアアアッ!バキバキバキィッ!』


 えっ?何今の?なんか…令央が殴りかかった方角からしたんだけど。

 恐る恐る俺はその方角を見ると…


 「!?」


 なんと、学校の裏庭の松の木がベッキリ折れていた。

 さらに後ろに合った岩も粉々。

 それらの後ろにある金網の囲いも大穴が開いてひしゃげている。


 う、嘘だろ…

 まさかこれ…令央の撃ったパンチかっ!?

 おい!?アイツ喧嘩まで成長してやがったのか!?

 そこも成長し過ぎてたのかよ!?


 ……ってなんか俺に向かってラッシュが飛んできてるんだけ…


 「「獅子嵐迅(ししらんじん)ッ!!!!」」

 

 「うぎゃああああああああ!ぐへっ!ぼふっ!むぎゃあ!うぎぃえーーーーーっ!」

 「あ、兄貴ぃぃぃぃっ!」


 

 

 凄まじい速さで繰り出される令央の拳の乱打の中…俺は悟った。


 ……………。






 ≪こりゃ勝てねぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!≫






 おいおいおいおい!

 待て待て待て待て!

 タンマタンマタンマタンマ!

 強い強い強い強い!

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ!

 こんなん勝負一瞬でついちまうだろうがっ!

 俺はそんなの嫌だ!

 こういうのってさぁ!もっとこう……粘るでしょ!

 最初は攻撃かわされるわ一方的に殴られるなりしてるけど、最後の方で根性出すか愛する女の応援でパワーアップして一気に押し返すのが定番だろ!?

 というか俺はそれが理想なんだよっ!

 テメェ強いにも程があるだろ令央!

 もっとよぉ!お義兄ちゃんを活躍させてくれよ!

 ここでアッサリやられるのなんか嫌なんだけどっ!

 つーか技名叫んでるけど何だよ!?

 威力といいマンガかおい!?

 

 「ハァッ!」

 「グヘぇぇぇぇ~~~~~~~っ!」


 かつて喧嘩でぶっ飛ばしてた三下共が叫ぶような悲鳴を上げながら、俺はぶっ飛ばされて地面に叩きつけられた。

 あぁ、俺にシメられてた連中ってこんな気持ちだったのかな……

 ヨロヨロとなんとか立ち上がるが、全身がとてつもなく痛い。

 息切れもしている。苦しい。

 一瞬でここまでやられちまえばもうやり返す体力と気力はほぼ無い。

 だが…それでもアイツを認めたくねぇ!アッサリし過ぎてるからっ!

 俺は…もっとっ…互角で殴り合った末に負けてぇんだっ…

 こんなの…認めねぇ…

 こうなるぐらいなら…なんとしてでも俺の勝ちにしてやるッ!

 体の所々に走る激痛を堪え、冷静になった俺は余裕の笑顔を作って令央を見据えてニヤリと笑ってやる。てめぇの拳なんぞ痛くも痒くもねぇ。(実際は死ぬほど痛いが)

 後は、目の前の敵にこれ以上の戦いが無意味だと思い知らせてやるだけだ。


 「フッ…」

 「シバさん?」

 「兄貴…?」

 「フッフッゲフッ、ハッハッガハッ、ハッハッハッハッ!まだまだだな令央!そんなヘナチョコな拳は俺に響かん!全く響かねぇなっ!」

 

 最後の手段…ハッタリ。

 自分でも情けないと思う手段だが、今の俺に出来る事はこれぐらい。

 アイツの言葉を信じる時と同じぐらい大きな賭けだが…果たしどうなるのだろうか?

 頼む。令央、攻撃をやめてくれ。

 どうか。どうか__________________

 俺は、藁にも縋る思いで結果に縋りついた。


 「くっ…なんという強さ…!さすがシバさん…!」


 ふ、普通に信じてたーーーーっ!

 まぁコイツは前からボンクラだったとはいえここまで信じるかオイ!?まぁ良いけど!

 という訳でこの勝負は俺の勝ち!俺の勝ちだ!奈良の事は諦めてもらいましょっか!令央くん!

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