第35話 おしどり夫婦の実際(オシドリ)

 いつものバードウォッチングコースを歩いていると、なんと川でオシドリのつがいを見つけた。


 オスはオレンジや茶色や青色のカラフルな羽をしている。お尻の前にオレンジ色の飛び出た三角形の羽があるのだが、これは銀杏羽を呼ばれている。一方のメスは全体的に灰褐色。地味な色合いだが、目の周りに白いリング状の模様があるのが特徴だ。


 オシドリのつがいは一緒に川を泳いでいく。メスが先頭になって、オスがその後を追っていた。


 ちなみにオシドリの名前の語源は、オスメスの仲が良いため、「雌雄相し」という言葉から来ているのだそうだ。(『野鳥の名前 名前の由来と語源』より)


 「おしどり夫婦」や「鴛鴦えんおうの契り」などと言われている。オシドリは夫婦仲の象徴とも言える鳥であろう。


 だが、しかし、実際のオシドリは、毎年ペアを変えている。


 オシドリは、メスが巣作りや子育てを担い、オスはメスが卵を産むと、縄張りを離れて新しいメスを探しに行ってしまうそうだ。仲睦まじいのは一時だけ。私が見たオシドリのつがいも、おそらくまだ子育てはしておらず、なわばりを探している段階だったのかもしれない。


 オシドリの実際はおしどり夫婦ではないのだが、鳥の中にはちゃんとしたおしどり夫婦もいる。タンチョウやハクチョウ、ペンギンなどは、同じつがいで一生を添い遂げると言われている。身近な鳥で言えば、カラスもめったなことがない限りは、仲良く一緒にいるそうだ。


 鳥は「つがい」という言葉があるように、一夫一妻の婚姻形態をとるものが多いが、実は鳥によって事情はさまざまである。


 例えば、第31話で紹介した夏鳥のオオヨシキリは一夫多妻。オスの縄張りに複数のメスがいて巣を作り、子育てをしているそうだ。


 タマシギという水田などに生息する鳥は一妻多夫。オスメスが逆転している鳥で、メスのほうが派手な色をしている。子育てはオスだけでおこない、メスは卵を産むと次のオスを探して行ってしまうのである。


 高山に住むイワヒバリという鳥は、乱婚と呼ばれるもので、数羽のオスとメスが共同で繁殖をするらしい。


 ほかにも、鳥には「つがい外交尾」といわれる不倫のような関係もあるらしい。ツバメのメスは、自分のつがいのオスよりも尾の長いオス(イケメン)が現れると、こっそり交尾をすることがあるそうだ。


 ほかにも、「種内託卵」といわれる行動があり、例えば巣を作れなかったムクドリは、他のムクドリの巣に卵を産んで、子育てを任せることがあるという。カッコウの仲間は自分で子育てができないので本能のまま他の鳥に託卵をするが、こちらは子育てしたいのにできなくて泣く泣く子どもを託した行動といえるだろう。


 同じ巣で育った兄弟姉妹でも、実は別の親の子が混じっている場合が少なくないといわれている。


 ……と、今回は鳥の恋愛事情について書いてみたが、鳥にもそれぞれの恋があるということだ。


 ちなみに、今回撮ったオシドリの写真を、私は知り合いに見せびらかしていた。


「仲良しなつがい。唯一無二の相手がいてうらやましい」

「オシドリ、毎年ペア変えるけどね」

「ガーーーーン!!」


 真実を知ってショックを受ける友人。


「癒やされるわー。こんなに優雅に泳ぎたいなぁー。この写真が明日からの励みになるよ」


 厳しい現実に立ち向かい、束の間に癒やしを感じる旧友。


「……カモやな」


 オシドリとカモの違いがわからない兄。


「とりとりー」


 特に感想がなくてテキトーに返す知人。


 鳥に対する反応も、人それぞれなのだった。



追伸

オシドリがこちら。

https://twitter.com/miyakusa_h/status/1531272952750014464

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