第12話 君にまた、会いたかったんだ。(チョウゲンボウ)

 さぁ、晴れた。バードウォッチングに行こう!


 と、例のごとく「晴れたらバードウォッチング症候群」を発症した私は、いつもの田んぼ道コースへバードウォッチングへ出掛けた。


「今日はなにが見られるかな? ノスリをまた見たいな。チョウゲンボウもいいな」


 なんて思いながら歩いていて、出会いは、すぐに訪れたのだった。


「ケッ、ケッ」

「あっ、ツグミだ」


 道を歩いていると、前方からツグミが一羽飛び立った。カメラを向けようとしたが、飛んでいった先には民家があった。さすがに民家にカメラを向けるのはマナーがよろしくない。私はそのまま道を歩いていこうとした。


 そしてふと、さきほどツグミが飛び立った近くにある電柱の上に、鳥が一羽とまっているのを目にした。


「あれは……ツグミかな?」


 私はカメラを手にしながらゆっくりと近づいていった。もう少し行ったらカメラを向けようか。もう少し。もう少し……。と、じりじり鳥へ近づいていった。


 しかし、欲張ったのがいけなかった。


「あっ、飛んだ……」


 ひとつ手前の電柱まで近づいた時、その鳥は飛び立っていってしまった。

 ツグミだから、すぐ近くの地面に降り立つだろう。そう思って、飛んでいく鳥を目で追った。


 だが、そこで私は違和感に気づいた。


 ツグミよりも体がちょっと大きい。そして翼の形が鋭く見える。その鳥は地面に降りることなく、田んぼの上空を飛んでいく。


 次の瞬間、その鳥は翼を羽ばたかせながら、空中の一点にとまった。


「ホバリングだ!」


 私は足を速めた。民家のある場所を抜けて、両サイドに田んぼが見える開けた場所まで行った。けれどももう、飛んでいる姿は見えない。


「いや、でもそう遠くには行っていないはず。まだ近くにいるかもしれない」


 そう思い、私はリュックから双眼鏡を取りだした。鳥が飛んでいった方向の田んぼや木々を探してみた。


「……いたっ」


 幸運にも、その鳥は、用水路のそばに生えた低い木の上にとまっていた。


 予想はついているが、遠くて双眼鏡ではその姿の詳細がわからない。私は双眼鏡からカメラに変えて、木にとまる鳥を撮影した。その画像をズームして確認してみた。大きさは、カラスよりも小さくてほっそりしている。顔には涙の跡のような黒い筋模様が見える。


 間違いない。チョウゲンボウだ。


 それからしばらく、木にとまるチョウゲンボウをカメラで撮ったり、双眼鏡で見たりしていた。すると、チョウゲンボウは不意に空へと飛び立った。田んぼの上を旋回し、翼を激しく羽ばたかせながら空中の一点にとまる。


 UFOっぽい。頭の中でミステリアスな曲が流れ出す。


 私は空へカメラを向けて、シャッターを切った。前回は興奮してなかなかカメラに捉えることができなかったが、今回は落ち着いて撮影することができた。ホバリングをしている時は、空中の一点にとまっているから、案外ねらいやすかった。


 しばらくすると、チョウゲンボウは遠くへ飛んでいってしまった。


 一度目の出会いの時は偶然かと思っていたが、二度目になれば運命だ。おそらくあのチョウゲンボウは、この辺りを縄張りとしているのだろう。


 会いたかった鳥に再会できて、この日のバードウォッチングは大収穫だった。


 チョウゲンボウ。次はいつ会えるだろうか。いつもの田んぼ道コースへ行くのが、これからはより楽しみになるだろう。



追伸

その時に撮ったチョウゲンボウがこちら。ホバリングしています。

https://twitter.com/miyakusa_h/status/1492420730088161283

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