第10話 何のためにこの道を行く。(ノスリほか)
くっ……。私はなぜ、こんな場所にいるんだ……。
歯を食いしばりながら、私は積雪十センチの雪道を歩いていた。田んぼの一本道に、私以外の足跡はない。本日限定前人未踏の地を、私はひたすらに進んでいた。
寒い。疲れた。足が痛い。
薄れゆく意識の中、思った。なんのために、私はこの道を歩いているのか。この道の先に、いったいなにがあるというのか。
抱いていた希望は薄れかけていた。私は途方に暮れ、立ち止まり、空を仰いだ。
その時、目にしたのだ――。
* * *
それは、三十分前のこと。
「あぁっ、晴れた! バードウォッチングに行かなきゃ!」
私はかの「晴れたらバードウォッチング症候群」を発症していた。晴れたらどうしてもバードウォッチングへ行きたくなってしまうという恐ろしい病である。
しかし……。私は窓の外を見てみた。昨日降った雪がまだ積もっている。道路はすでに除雪されているが、これから行くいつもの田んぼ道コースはおそらくそのままだろう。鳥を観察する前に、歩けるだろうか。
そう心配しながらも、手は自然と双眼鏡を持ってカメラを持って、準備を始めていた。雪道でも困らないよう、今回は長靴をはいて、万全の装備で出かけて行った。
今回、最初に出会った鳥は、ハクセキレイだった。二メートルほどの近距離で、道の上をテテテテテと歩き回っていた。かわいい。道端に落ちていた土の塊をくわえて、ブンブンブンと振り回していた。かわいい。テテテテテ、ブンブンブン。テテテテテ、ブンブンブン。かわいい。
ハクセキレイと別れ、両サイドに田んぼが広がる道を歩いていく。幸いにもこの道は除雪がされていて、雪が積もっていなかった。田んぼから生えた枯れ草にホオジロの群れがとまっていて、それらを観察しながら歩いていく。
そして、突きあたりに着いて、今度は川沿いの道へ進もうとした時だった。
私は足を止めた。
道が、雪に埋もれている。
だれも通っていない。白銀の一本道が、私を出迎えてくれた。
しかし、私の頭に引き返すという言葉はなかった。以前、この道を歩いていてチョウゲンボウに出会ったことが頭をよぎる。二度目の出会いに期待して、私は辺りを見回しながら道なき道を進んでいった。
――そして、希望を失いかけた。
雪道でなけなしの体力を奪われ、息を切らせながら立ち止まった。私はいったいなにをしているんだろうと自嘲して、空を仰いだ。
その時、一羽の鳥が、こちらへ近づいてくるのが見えた。
「……カラスかな?」
最初はそう思った。けれどもしだいに近づいてくるその鳥は、真っ黒ではない。ついでに言うと、トビでもない。
「タカだ!」
私はカメラを向け、シャッターを切った。鳥は私の上空を横切り、一直線に飛んでいってしまった。出会えたのは束の間だったのだが、幸運にもその姿をカメラに収めることができた。
帰ってから、私はカメラの画像と図鑑を見比べてみた。撮れた鳥は、以前探鳥会へ行った時にも出会えた、ノスリという鳥だった。
ノスリ。タカの仲間で、おもに冬に見られる渡り鳥だ。飛んでいる姿を下から見ると、薄茶色っぽくて、体がずんぐりしている。お腹あたりに茶色の帯があり、まるで腹巻をしているみたいに見えるのが特徴だ。名前は、野を擦るようにして飛ぶことから、ノスリと言われているらしい。
どんな鳥でも会えたらうれしいのだが、やはりタカの仲間に会えると、レアな鳥を見た気分になってひときわうれしい。
道なき雪道を歩いたかいがある、充実したバードウォッチングだった。
追伸
・その時に撮ったハクセキレイがこちら。
https://twitter.com/miyakusa_h/status/1485208068971384833
・ホオジロがこちら。
https://twitter.com/miyakusa_h/status/1487007162916245507
・ノスリがこちら。
https://twitter.com/miyakusa_h/status/1484438649986957315
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