第9話 あれはUFOか(違います)。(チョウゲンボウ)

 チョウゲンボウ、という鳥をご存じだろうか。


 ハヤブサの仲間で、大きさはカラスよりも小さい。とまっている姿を図鑑で見ると、頭は青灰色で、翼は茶色っぽく、お腹は薄茶色で黒い点々模様があり、尾羽は黒い。丸っこい頭をしていて、目の下に泣いた跡のような黒い模様があるのが特徴だ。


 今回はそんな、チョウゲンボウに出会った話をしよう。


 あれは私が、いつもの田んぼ道コースでバードウォッチングをしている時だった。


 トビ、かわいいよ、トビ。でも、逆光で上手く撮れない。でも、かわいい。かわいいよ、トビ。


 などと思いながら、飛んでいるトビを見ていた。しばらく川沿いの道を歩いていて、私ははたと足を止めた。


 田んぼの上空。空中の一点でとまる、異様な物体があった。


 一瞬、UFOかと思った。頭の中で、ミステリアスな曲が流れ出す。


 でもよく見ると、その物体には翼があって、しきりにそれを羽ばたかせていた。これは停空飛行、またはホバリングというやつだ。


 へぇー、トビって、ホバリングできるんだ。すごーい。初めて見たー。


 ……。んなわけない! なんだあの鳥は!?


 一人でノリツッコミをしながら、私はようやくカメラを構えた。ホバリングする鳥を映そうと、レンズを向けた。しかし、興奮した手は震え、なかなか画面に姿が映らない。「捉えてよー!」とか心の中で叫びながら、なんとか観察を続ける。


 幸いにも、その鳥はかなり長い間、私の前にいてくれた。ホバリングしながら空中の一点にとまり、下に広がる田んぼを注視している。なにかに狙いを定め、一気に急降下。田んぼに降り立ち、再び翼を広げて舞い上がる。それを何度か繰り返す。残念ながら獲物は捕らえられなかったようだが、狩りの一部始終を観察することができた。


 ちなみにこの時、私はまだ鳥の種類がはっきり識別できていなかった。双眼鏡を家に忘れてきてしまったうえに、カメラで撮ることに一生懸命になっていて、鳥を識別する余裕がなかった。


 家に帰って落ち着いてから、撮った画像と図鑑を見比べ、なんの鳥か調べてみた。目の下に泣いた跡のような黒い模様が見える。それにあのホバリングをしながらおこなう狩り。チョウゲンボウで間違いない。私にとって、初めての出会いだった。


 それにしても、あのホバリングはすごかった……と、今でも思い出す。空中の一点で、ブレることなくとまる姿。翼を羽ばたかせるだけで、どうしてあんな芸当ができるのか。重力はどうなっているのか。


 やっぱり、あれはUFOだったんじゃないか。そう思ってしまうほど、驚異的な飛行術を目の当たりにできて、鳥のすごさを再認識することができた。


 これからはチョウゲンボウを見るたびに、ミステリアスな曲が頭の中で流れそうである。



追伸

その時に撮ったチョウゲンボウがこちら。

https://twitter.com/miyakusa_h/status/1479705822666309635

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