第7話 戦争
ディジカがペクーニャ人の使節を追い出した3日後。その使節は、300人を超える兵士を連れてやってきた。そうとう殺気立った様子だ。
「直ちに麦を返し、この土地から立ち去れ」
そう要求してくる。しかし、もちろん受け入れるつもりはない。村の男たちは、兵が見えた時から装備を始め、ホンボも準備はできている。人数もホンボの方が多い。
シバンも森に向かった後に追いかけてきてフィシリエに事情を聞き、すでに準備していた。
だが、ホンボ人は状況が全くわかっていなかった。つい先日まで友好的だったペクーニャ人は態度を
村からディジカが出てきた時、周囲を静寂が包んだ。ディジカは兵の前に出ていた使節の前で止まった。隠していた小さな石包丁を使節の首に刺した。
静寂を壊すように使節が倒れた音がした時、ホンボとペクーニャの兵は同時に走り出す。次の瞬間、両者はぶつかり乱戦が始まった。
シバンも普段から振るっている斧を手に戦った。人を傷つける感触を骨の髄に響かせながらも戦った。妹を守るために。
戦いはすぐに終わった。結果はホンボ人の圧勝に終わった。ペクーニャ人の兵士はまともな武器を持っていなかったのだ。彼らは農耕民族で、この周囲にペクーニャ人以外の民族も少ないため、武器の必要性が薄かった。
殺気に圧倒されていたホンボ人は終わった後にあっけなさを感じていた。
しかし、シバンは別だった。初めてフィシリエを守ったことを実感した。母の遺言を守った。そんな思いで彼は満たされていた。
彼は、最近よく見た悪夢は積極的に遺言を守ろうとしない自分に対する戒めだと結論づけた。
生き残ったペクーニャ人は
「俺たちが育てた麦を奪われた報復」
だの
「神への冒涜」
と言っていたが、ホンボ人にはまるで理解できなかった。彼らは麦が自生しているものと思っていたからだ。
被害が少なかった彼らははペクーニャの村に向かった。
村はもぬけの殻となっていた。どうやら逃げたらしい。しかし、そこには、大量の麦のが残されていたため、それを戦利品にすぐに村へ引き上げた。
その夜、シバンは再び同じ夢を見た。しかし、以前よりさらにうなされるようになった。何度も起きてしまい、眠れそうにないシバンは夜風にあたりながら考えた。
「なぜまだ悪夢を見るのか」
彼が出した結論は、
「まだ足りない」
だった。
それからしばらくした後、再びペクーニャ人が襲ってきた。どうやら別のペクーニャ人の村に助けを求めたらしい。しかし、それも返り討ちにした。そして村に
シバンは木こりをやめて戦いに専念した。戦いに勝つたびに、得ていた満足感は快感に変わっていった。だが、その度に悪夢はひどくなり、その度に戦いを求めた。
しだいに、ホンボは打って出るようになった。今までは非戦闘員を巻き込むことはなかったが、そうはいかない。
皆、麻痺していた。最初に攻撃を受けたのは自分達。正義はこちらにある。それが彼らを戦いに駆り出した。
ペクーニャ人は弱い。ホンボは勝つたび大量の食糧を手に入れ、労働力を軍に回す余裕が生まれ、増強していく。
大衆の潮流は戦争を後押しした。
彼らは思い出せなかった。故郷を追われた自らの過去を。
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