第6話 行き違い

 シバンが木こりを終えて森から帰ってきた夕方のことだ。

 村の中央で平で丸い何かを配っていた。見ると周りには村人が集まって人混みを作っていた。その周りではそれを頬張ほおばっている人も多数いる。

 不思議に思ったシバンが近づくと人混みの中からフィシリエが現れた。手にはその何かを2つ持っている。


「ちょうどよかった。シバンの分ももらってきたよ」


「それよりこれはなんだ。ほんとに食べて大丈夫なのか」


「大丈夫よ。ディジカさんはもっと前に食べたけど毒ではなかったって。ペッシュって言うらしいんだけどペクーニャの人が作り方を教えてくれたんだって。」


 そう言ってフィシリエはシバンにペッシュを渡した。


「さあ、食べてみて」


 そう言われてシバンはしぶしぶペッシュの端をかじった。

 特に味はしないと思ったが、しばらくんでいると少し甘みを感じた。


「どう?」


「どうって言われても、あんまり美味しいものではないと思うけど」


「ふーん」


 そう言ってフィシリエもペッシュをかじった


 そんなことを話をしているとディジカが中央で話し始めた。


「諸君。このペッシュを食べてくれたか。ペクーニャたちはこのペッシュを主食にしている。そこで作り方を聞いたところなんと、このペッシュの材料はそこらじゅうに生えているあの麦だと言う! 彼らは一度に1年分の麦を採って暮らしていると言うのだ。これで安定しない食糧事情は解決するだろう」


 この言葉を聞いて人々は歓喜した。かつての熱帯雨林では豊富にあった食料も、この土地に移ってからは環境に違いにも苦労し、ひもじい思いをすることも多かった。


 ペクーニャ人曰いわく麦は黄金色こがねいろになった今がちょうど収穫しゅうかくの時期ということで、明日準備を整え、明後日には収穫しゅうかくに向かうこととなった。


 しかし、ペクーニャ人とホンボ人の間には大きな行き違いが生じていた。


 次の日、ホンボ人たちは、ペクーニャ人の村の近くに生えている麦は彼らの縄張りだろうということで、ホンボ人たちの村から近くの川沿いの麦を収穫しに行った。収穫には想像以上の人出と体力が必要だということで、収穫し切らなかった麦は次の日に男手を動員して収穫しに行った。

 麦の移動には3日を要し、ひとまず倉庫に保管されることとなったが、大量の麦を保管するには全く足りず、専用の倉庫が新たに建てられることになった。


 麦の収穫でホンボ人たちが慌ただしく作業していた時に、ペクーニャ人の使節がやってきた。何やら麦を返せと言っているらしかった。が、返せと言われてもホンボ人からすれば、わざわざ配慮してペクーニャ人の村から遠い場所の麦を収穫しゅうかくした。その麦を返せと言われる意味がわからいディジカは彼を追い出した。

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