第5話 新たな村

 ホンボ人が新しい土地に移ってもうすぐ2年だ。ここでの生活も安定し始め、この土地で生まれた子供もいる。


 ホンボ人もここ2年で周辺の状況もだいぶ分かってきた。まず、この地域にも弱い雨季と弱い乾季があり、下ってきた川は1年のうちに水位の上下を繰り返しているということだ。彼らが訪れた時はちょうど乾季だったらしく、上陸して最初に造った村は100日もしないうちに水に浸かり始めたため、さらに西の高台に移動してきた。


 川をさらに下った先には、中州が増え始めて村がいくつもあった。そしてもちろんその周りにはあの奇妙な植物が大量に生えている。しかし、雨季の時期はその植物が生えていた場所は池になっている。その植物は川沿いの窪地くぼちとなった場所に生えていた。その川はラバウルと呼ばれていた。

 どうやら彼らはという民族らしい。 

 ペクーニャ人たちはそのほとんどは数多あまたある中州の内側に住んでいるが、川の外側にも規模こそ小さいが少しの村があった。そしてその近くにもあの植物が生えるであろう窪地くぼちがある。

 一番近くのペクーニャ人の村とは交流も度々ある。その村の規模はホンボ人の村よりは少し小さく人口3千人ほどだった。

 交流はホンボ人の族長となったディジカたちが担当している。最近はそこに暮らしている人々と少しづつ意思疎通もできるようになってきたようだ。今までの交流は互いを見極めるという意味が大きかったが、互いに特に害を与えそうにないということもわかってきたため、最近は文化的な交流も始まった。


 そして、前回の交流でペクーニャ人の村の食事を振る舞われた時に、出された一つの食べ物はホンボの興味を引いた。

 それはパンだった。ペクーニャ語ではペッシュ、と呼ばれるこのパンは今の我々が知るふっくらとしたものと違い無発酵で平焼きのものだが、それでもホンボ人にとっては今まで見たこともないものだった。

 ペクーニャ人は毎食のように食べているらしい。ディジカがこんなものをどこで見つけたのか聞くと、見つけたのではなく作ったという。

 どうやら次の交流ではその作り方を教えてもらえるということで、上機嫌で帰ってきたディジカたちを見たのはつい最近のことだ。


 一方シバンは今、木こりの仕事をしながらフィリシエと一緒に暮らしている。

 朝はフィシリエがいつも用意してくれる昼食を持って村の南の森に向かう。昼食と言っても、ホンボ人の主食は狩りで得た肉や川でとった魚、森で採ってきた木の実や野草などだ。しかし、肉や魚は安定して獲れないため木の実や野草が多い。

 森ではきこり仲間のディカムシュと無駄話でもしながら木を切る。


「ふわーぁ」


「どうしたシバン、豪快なあくびして。ちゃんと寝てるのか?」


「なんでもねぇよ。寝過ぎて眠いんだよ」


 そうは言ったがシバンは悩んでいた。本当は最近寝れていないかった。毎日同じ悪夢を見て悩んでいたのだ。襲撃された日の夢だ。今までは全くこんなことはなかった。襲撃された夢を見たことはあってもここまでうなされることはない。もう2年も経って、少しづつ忘れていくような時期。そのはずなのにこの記憶はどんどん深く刻まれて行った。


 このことは相談しようにも、他の人の嫌な記憶を呼び起こすだけになる。それはできないと思ったシバンは誰にも相談できずにいた。

 シバンはこの悪夢は何かの虫の知らせではないかと思い始めていた。

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