第4話 【中間報告】未だに耳周辺、火照ってるんだけど
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ゾワリと寒気を感じ、俺は目を開けた。
深く沈んだベッド。
お腹辺りまでかかった布団。
壁掛け時計は深夜零時を過ぎていた。
「はぁー」
大きなため息を吐くも、イヤホンの騒音防止機能のお陰で微かに聞こえる程度だった。
イヤホンからは変わらずASMR音声が流れている。
紛れもない、俺に向かって囁き続けている。
俺はスマートフォンを操作し、再生トラックを止めた。
「ヒナさんとか、マジうける」
再生トラックの壁紙である『ヒナさん』と目が合う。
大きなパッチリ瞳。
涼やかな浴衣を押し上げる胸の膨らみ。
肩までかかる黒髪。
お淑やかに腰を下ろし、こちらに上体を近づけ、ヒソヒソ話するみたいに口元に手をやっている。
ヒナさん――高柳日那美は学生ではなく、若女将だ。
聞き手である俺は彼女がいる山奥の宿に泊まりにくる。
背中マッサージや洗髪などのサービスを受け、最後は耳かきをしてもらって眠りにつくのだ。
先程までのヒナさんとは違う。
それもそうだ。
クラスにヒナさんみたいなASMR好きで可愛い子がいたらとっくにイベントが起こっていても不思議じゃない。
しかし驚いた。
声までそっくりだったからだ。
キャラクターボイスを担当する声優さんは甘々な囁き声が特徴的で、ASMR業界では有名な人だ。
この人が担当する作品は毎回チェックしている。
日々の積み重ねが、いつもと違う、より濃密な時間を生み出したかと思うと、まんざらでもない気持ちだ。
耳周辺の感覚が過敏だったのも頷ける。
彼女たちを感じることができる、唯一無二の感覚器官なのだから。
「また、会えるかな」
未だに体は火照っている。ほんのりと眠気も感じる。
今日はいい夢が見られそうだ。
俺はイヤホンを外し机に置き、スマートフォンを暗転させ布団にくるまった。
電気を消すと、すぐ横にヒナさんの気配を感じた。
「おやすみ」
返答はなかった。
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