第3話急に来て急に帰る
「お疲れー。」
疲れていない元気な晃の声に合わせて、互いの缶を軽くぶつけ合わせた。
彼を見ていると、自分の身の上に起きている出来事についていちいち気にするのが無駄に感じ、重怠い思考を酒と共に飲み下した。
「いきなりだけどさ。先日あった屋和良さんだっけ。どう? 」
「は? 何言ってんの。」
「気に入ったかなーと思って。」
「そーゆー意味で呼んだわけね。」
「それもそうだけど。狙ってた子が仲のいい子と一緒じゃないと嫌だって言うしー。男一人だともう一人の子が居ずらいかなって思ってさー。呼んじゃった。」
明るく楽しそうに返事をするのが頭にくる。結局は人の都合を考えず行動していたという事だろう。
苛立たしさを体から出したくて、無理なことなのに酒を流し込む。
前からこんなやつだっただろうかと、ふと、出会った高校時代の晃を思い出して呑むのをやめた。
「余計なお世話です。」
「もしかして彼女いたのか! 誘ったりなんかして悪い! 」
顔の前で両手を合わせ懇願するように謝罪の言葉を口にする彼を見ながら、高校時代の晃を思い出していた。
当時はどちらかと言うと自分の方が今の晃と似たような性格だった。そして、彼はおとなしくいつでも冷静な思考を持ち、相談事があると必ず彼にしていたのだ。
いつから互いの性格が入れ替わった様になってしまったのだろう。
大学からはまた別々の道を進んで、それから一切連絡を取ることはなかった。
今の職場では仲の良い人物などいない。一日中黙りこくってキーボードに指を走らせているだけの日々。
それでも不満はない。
「まあ、いつでも連絡くれればセッティングするよ。」
馬鹿に明るい声に思考が途切れ、現実に引き戻される。
「タイプじゃないからいいよ。」
「そう言わずに。ただ話したい時だけでもいいからさ、何かあったら教えろよ。」
晃はそう言うとおもむろに席を立つ。
「あれ、もう帰るのか。」
少し酔いが回って頭の回路に霞がかかる。
「ああ。突然誘って、突然終わりにして悪いな。」
晃の用事は呑み会の感想を探りに来ただけだったらしい。
「じゃあ、またな。」
そう言って去ってしまった。
しっかりしているやつで、烏龍茶を持って帰って行った。
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