第8話  アルベールの兄弟たち

「兄様~ おかえりなさ~い」


「兄様~ 可愛い水の乙女を連れ帰ったのですって?」


 アルベールの双子の妹たち、十五歳だ。


「ベルベッティーヌ、お前の風の貴婦人は、耳が早すぎだぞ!」


 同じ顔で、莉乃と同じくらいの年の子らが、アルベールの右肩に寄ってきた。


「水の乙女ですって? 名前は? 私はリリエンティーヌ・エル・ロイルよ。」


「み……」


「こら!! 俺の水の乙女を取るな!!」


 リリエンティーヌの方が言う。


「だって、兄様。私たち風や大地の加護はあるけど、火や水の加護は稀ですもの」


 確かにそうなのだ。

 火や水の精霊は圧倒的に数が少ない。

 今の時代の魔法使いは、精霊と契約をして、力を借りていたから、自然と、火や水の使い手は限られてきた。

 強い精霊を手に入れるには二つ方法があった。

 位の高い精霊と契約するか、下位の時に契約して育てて行く方法である。


 後の方が断然に簡単だが、思った通りの力を発揮してくれる精霊になってくれる保障はない。

 それこそ、上位の精霊は、山や森で気ままに生きているのである。


「私の火のチビ姫と交換で良いかしら?」


 双子の姉の、リリエンティーヌがアルベールにニッコリと笑いかけた。

 リリエンティーヌが近くに来ると、小さな火の精霊がグルルと唸っている。


<あんたなんかに、負けないわよ!>


<キャ!!>


 リリエンティーヌから、小さな火柱が上がって次の瞬間、リリエンティーヌはびしょ濡れになっていた。


「リリィ、チビ姫をけしかけたわね」


「だって、ベル……私は、ロイル家の者なのに、風の加護も大地の加護もないわ。幼い頃に、契約した火のチビ姫だけ……だから、お兄様の新しい精霊を奪おうとしたのに……もう、この精霊も私のことを敵、認定ね」


 びしょ濡れになったリリエンティーヌは館の中へ入って行った。

 ベルベッティーヌも後を追って行った。


「ジルベール、お前もか!?」


 十歳くらいの銀髪の男の子にアルベールは声をかけた。


「うん、欲しいよ。そうしたら、僕は上級精霊のコンプリートが出来るんだモン」


「子供らしくないぞ!! お前」


 アルベールは、弟にゲンコツ食らわせて、館に入って行こうとしたが、男に行く手を阻まれた。


 兄弟ではない。兄弟は皆、銀髪だがこの男は、栗色の髪の毛だった。

 そして、戦士と言ってい良いほど、身体を鍛えていた。

 父の一番弟子のリヒトだ。

 普通、ロイル家の当主が弟子など取ったりしないが、リヒトの魔法の力に惹かれてベルナ-ルの方から、弟子になって欲しいと懇願された変わりダネである。


 アルベールと同じ18歳だが、背は一回り大きい。

 彼は、風と大地は上級の精霊を、下級の水の精霊と契約していた。

 だから、水の加護は上位の精霊が欲しい所なのだろう……


「絶対に水の乙女はお前には渡さないからな!!」


 リヒトと対峙するといつもケンカ腰になってしまうアルベールである。

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