第9話  夢で逢えたら(1)

 アルベールは、リヒャルト王子を自分の家族に紹介すると、旅の疲れが出たのか、早々に自室のベッドに潜り込んでしまった。

 もともとは、ロイル家のお坊ちゃまである。

 今回は風の力をかわれたのだ。

 誰よりも大きな風を呼べて、シードック帝国の王族を一人でも脱出させること。

 それが、アルベールに課せられた任務だった。

 作戦は、大成功であった。帝国側は、あらかじめ世継ぎの王子に未来を託していて、大地の魔法使いが、指定した場所にリヒャルト王子を連れてきていた。

 それを、アルベールは風で攫って来ただけだった。

 帰りに、莉乃を拾って……


「疲れた~ 寝よ~」


 フカフカの自分のベッドは久しぶりである。


<ねぇ、ねぇ、>


 莉乃が話しかけても、もう、返事はない。

 ただの屍のようだ……ではなく、完全に眠り込んでしまったようである。


<ねぇってば!! 私、これからどうなるの!?>


 莉乃が叫ぶと、彼女は今まで感じていた束縛が外れたことを感じた。

 そして……


「!?」


「何だよ~ もう~可愛い子ちゃんの夢見てたのに~」


 と、起きたアルベール。


「あれ!? 夢で見た可愛い子ちゃん。どして俺の部屋にいるの?まさか、良いことしようなんて忍び込んできたwww 俺は何時でも良いよ~!! カモ~ン!!」


 莉乃は呆れてものが言えなかった。

 これがあの、魔法使いのアルベールの本性なのか?

 莉乃が泣きそうな顔になると、


「お、おい!どうした!? 可愛い子ちゃん!」


「可愛い子ちゃんじゃないわよ。私が水瀬莉乃よ!! アルベール!! あなたがアルベールなのね!?」


「??? だって、お前精霊のず……エ ーーッ!? 肉体あるじゃん!! それはどこの国の服だ~? お前どこの国の者だよ~~!」


「地球のニッポンて国よ。私は、普通の女子高生。これは学校の制服なの」


「それが何で、この世界で、水の精霊なんてやってるんだよ」


「それは、前にも話したわ。イグニスという女神に、助けられてスカウトされたの。水瀬莉乃、水で死んだから水のスキルを与えるですって」


「なんじゃ、そりゃ……」


「私の苗字の水瀬はね、水を現わした言葉なのよ。その私が池で溺れて、現世での私は死にかけてるわけ!!戻っても、私は親友に彼氏を奪われたサイテーな人生が待ってるの!!そのくらいなら、こちらの世界でスキルを活かしましょって思ってるのに、何だか、分からない事だらけで困ってるわ!!」


 莉乃は言い終わった後で、大きく肩で息をした。

 アルベールは、驚いた様子で莉乃を見つめていた。

 いつも、半透明のリノが肉体を持っていた。

 息をしてるのも分かる、生々しさがあった。

 周りを見ると、知らない銀色の世界だ。

 慌てて、アルベールは顔をツネってみた。

 痛くなかった!


「結論!! これは、俺の夢だ!! なんでかリノは俺の夢の中で肉体を持って現れるんだ。これは、お前が上位の精霊だからに違いない!」


「ちが~う!! まだ、何が出来るか、分からないわ!!」


「水の力と言ったら、雨降らしたり、雷落としたり、後、水鏡の術とか、水の路に水占……かな……?」


 アルベールは、改めて莉乃を見て思った。

 胸の膨らみが無ければ男に見えるぞ……

 精霊で、身体が透けている時には分からなかったが、この世界で莉乃のような髪型をしているのは男性だけだ。


 アルベールは、複雑な思いで莉乃を見た。

 莉乃は胸元を見られているのに気が付いて、


「どこ見てるのよ!! エッチ!!」


 思い切り、アルベールの右頬を叩いたのだった。


「ここだと、触れも出来るんだな~」


 吹っ飛びながら、何故か喜んでいるアルベールである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る