第4話  契約

「どうしたんだ!? リヒャルト王子。火の精霊をそんなに怒らせて?」


「リヒトで良いですよ。アルベール、やっぱり怒ってます?」


「うん、かなり」


 莉乃は、慌てて、焚火の側から離れた。

 裸で帰って来た銀髪のアルベールを見てビックリだった。

 彼の身体という身体に、小さな自分と同じ、半透明の物体が付いていたのだ。


「いや~ 大きな滝なら、上位の精霊もいるかもって思ったが、雑魚ばっか!!はぁ~! 俺、水には見放されてるのかな~」


 アルベールは大きな溜息をつく。


「何を言ってるのですか!? ロイル家の次期当主が」


「いや、近所の川で二回も子供の頃に溺れてるんだ。溺れるなんて、水の加護のない証拠じゃないか」


 その落胆ぶりが面白くて、莉乃は声を出して笑ってしまった。


「また、声がした。笑い声だ」


 アルベールは後ろを振り向いた。

 そして、莉乃と目が合った。


「お前……精霊? その姿は、変わってるが水の匂いがする!水の精霊に違いない!! 名前は何というのだ?」


<それより、私が見えるの? 見えてるの!? 私、透けてるのに!!>


 莉乃はこの世界で初めて、人と触れ合えたことに興奮していた。


「見える。俺を誰だと思ってる。ロイル家の次期当主だぞ。イリアス・エル・ロイルの直系だ。分かったら、名前を教えろ」


 この言い方に莉乃は心底頭に来た。


<普通、人に名前を聞く時は自分から名乗るものよね>


「バカに人間臭い精霊だな!! まぁ、良いだろう……俺はロイル家の第一子、

 アルベール・エル・ロイルだ。さぁ、お前の名は?」


<水瀬莉乃よ>


「変わった名だな。ミナーセ・リョーか。俺の頭上は風の親方でうまってるから、取り合えず、右肩の上にでも来いや」


 莉乃にはアルベールの言っている意味が分からない。

 ただ、一つ言えるのは名前が違うことである。


<私はそんな名前じゃないわ!>


「だって、ミナーセって……」


<み・な・せ・り・の!! よ。ミナーセなんて名前じゃないわ>


「わりー! わりー!! ミナセリノね。俺の右肩に来い」


 すると、不思議なことに莉乃の身体は浮き上がり、アルベールの右肩の上に移動していった。

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