第71話 ニートピアからの脱出
船はニートピア外周をゆっくりと回遊すると、進路を本土へと向けた。舳先は東京湾湾港を目指している。
船を操縦しているのはホビットだ。操舵室にいる彼の姿が甲板から見える。背丈の低い彼は、椅子に立ちのぼって操縦しているのだろう。さすが船乗りを目指していただけのことはあるよな。
僕はクタクタになってその場で崩れた。アカバネ、そしてパピヨンも手にしていた警棒を投げ捨てると、甲板の上でへたりこんだ。
「フ、フ、フ、ハハハハハ」
パピヨンが急に笑い出した。作戦が上手く行ったことに安堵して、気でも触れたかのように哄笑したのだった。
それにつられるように僕も声を出して笑う。アカバネはただほほ笑むだけだった。不意に僕と目が合う。
そこへホビットが現れる。その顔は申し訳なさそうに、バツの悪い顔をしていた。そして一言だけ、
「すまねえ」とだけ謝罪した。
「気にしなくていいよ。僕も黙って出て行こうとしたんだ。こちらこそすまない」
と頭を下げた。
「船は操縦しなくていいの?」パピヨンが訊いた。
「大丈夫だ。自動航行に切り替えてある。しばらくしたらまた操舵室に戻るさ」
パピヨンはそれを聞くと、甲板に仰向けになって倒れた。アカバネは警備帽を脱ぎ、括っていた止めゴムを解くと、自慢の長い銀髪が船上で風に舞った。
しばらくは誰も口を開かなかった。このまま港に行きそして、船を下りる。元々の計画通りに事は運んでいる。あまりに順調すぎて僕には気味が悪いくらいだ。そもそもこうして、月夜に照らされ風に吹かれていることが、三か月前には想像できただろうか?
その時だった。
上空からプロペラ音がした。夜間飛行しているただのヘリコプターだろうと、誰も気にもしていなかった。しかし、ヘリコプターが、僕らを捕捉するかのように、船舶の上でホバリングし始めたとき、異常を感じた。
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