第68話 ニートピア、秘密の施設

 地面が芝生からコンクリートへ変わり、僕は緊張感を高める。ここから先はセンサーと人間の両方に警戒しなくてはならない。


 僕らは岩陰に身を潜めた。視線の先には、フェンスと鉄条網がラボをぐるりと取り巻いている。そして正面ゲートには、雨が降りしきる中、レインコートを羽織った二人の警備員が談笑しながら立っていた。


「どうするの?」

 僕は小声で訊いた。


「予想はしていた」とアカバネが言った。「しかしいざ目の当たりにすると委縮してしまう」

 アカバネが声を震わせた。


「最初はさ、警備員をぶっ倒して強行突破しようと考えていたわけ」

 パピヨンはじっと正面ゲート見つめた。


 サーチライトの光が灯台のように周期的に巡って来る。厳重な警戒態勢。


「ではこうしましょう。クロパン君、キミが囮になって。そして私とパピヨンが警備員の背後から急襲して、彼らを昏倒させる。どうかしら?」


「さ~んせ~い」パピヨンがニヤリとしながら言った。どうやらこんな逼迫した状況でも、コイツは楽しんでいるようだな。


「そんな危険なこと二人にさせれないよ」


 僕は拒否した。万が一失敗すれば、彼女たちの身が危ない。


「幸い私たちは射程リーチの長い武器を持っている。それにニートザワールドで受けた訓練は伊達じゃないわ」


「そうそう」

 アカバネの説得にパピヨンが何度も頷く。


 僕は彼女の提案を了承した。 


 僕はライトが通り過ぎるのを待って、アカバネの合図で走り出した。そして警備員の前をさっと通過すると、彼らが互いの顔を見合いながら、懐中電灯を照らして前へと歩く。


 その背後からアカバネとパピヨンが近づくと、持っていたあの大鎌とパラソルで警備員の後頭部を叩いた。鈍い音と共に、彼らが前のめりに膝から崩れた。


 ラボのゲートを通過し、建物の後方通用口の前にたどり着くと、アカバネがIDカードをポケットから取り出して、カードスリットにリーディングさせる。プーと音がして赤いランプが点灯する。どうやら失敗したらしい。それを何度も試みるが、通用口の扉は固く閉ざされたままだ。


「おかしい」アカバネが首を傾げた。「全ての扉の解除コードは取得しているはずなのに」


「ここはやっぱ特別だからねえ」パピヨンが言った。


「仕方ない。正面突破するしかない」

 アカバネの言葉の意味は分かっていた。敵がうようよいる、正面玄関から堂々と入るしかない、ということであった。


「じゃーん」


 パピヨンが洒脱な口調をしながら取り出したカードでリーディングさせると、カシャっという音がして緑色のランプが点灯した。


「なんと、さっきの警備員から拝借したのでした~」


「ナイスだパピヨン!」

 僕は素直に感心した。


 ラボ内に侵入した僕たちはレインコートを脱ぐと、元から着用していた警備員姿になった。僕がランドリー室から盗んだものだ。


 長い髪を女性たちはゴムで括ると、背中から上着の中へと毛先を入れる。そして警備帽を被ると、手にしていた武器を彼女たちは物陰に隠す。もう必要はないと判断したんだろうな。


 ラボ自体は深夜のためすでに稼働はしていない。当然廊下や部屋の中の明かりは点いておらず、非常灯のみが鮮やかなモスグリーンの色を発光していた。


 アカバネが進む方向へと僕もついていく。


 暗闇の中、ここが海洋生物センターの裏側にある建物であること、そして何隻かの船舶が、直結する港に停泊していることしか分からなかった。


 ここで一体何が行われているのか? 僕はそれを目の当たりにするまで気を緩めることが出来ない。

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