第67話 ニート、闇夜を切り裂く
闇夜を切り裂くように僕らは走った。降りしきる雨が地面を穿ち、跳弾のように僕らの足元を撃ち抜いた。しとしとと降る雨水が、フィールドの内の側溝や暗渠へと小川のように流れて行く。
靴の中はすでにぬかるんでいたけれど、帯びた使命の前ではそんなことへっちゃらだ。
センサーが僕らを感知するたびに、モンスターが現れる。もうここまで来ると幻想の世界に飛び込んだような異形の姿が出没する。それをアカバネが、
「3、2、1」
と大きな声でカウントし、僕とパピヨンに連携攻撃の手を緩めないよう促した。高レベル武器での連携攻撃はボーナスダメージが付与されることは、既に経験済みだ。
本来高レベルプレイヤーになると固有の攻撃スキルが発動する仕組みになっていた。それはアーム型端末と連動した技の数々であるが、今は位置情報を施設側に悟られないようにするために装着していない。つまり、手数と素早い行動によって、直接加重攻撃を加えるより敵を殲滅する術が無かった。
これが思っていた以上にしんどい。
僕は息を切らしながら、両手に持ったダガーを力いっぱい振り回した。
「アタシとアカバネは上級職のレベル50だけど、アンタは低級職のレベル50でしょ? もっとしっかり手を振らないと、施設に通報されちゃうんだからね!」
パピヨンの叱責に僕は、
「分かってるよッ!」
僕は半ばムキになってモンスターに攻撃を加えた。
「てか、パピヨンって何のジョブなの?」
僕はふと疑問に思った。
「【スーパースター】よ!」
「スーパースター!? そんなのあるの?」
「あるわよ。言っとくけど、アカバネの【ダークナイト】と【スーパースター】は、三つの低級ジョブをレベルカンストした挙句、特殊クエストをこなして初めて成れる、超優良ウルトラ上級職なのよ!」
いったいニートザワールドはどこまで奥が深いんだ。僕はこの職業訓練施設を全て堪能することなく、ここを脱出しようとしていることに、ちょっぴり後悔し始めた。
僕たちはグリズリー、ゴーレム、人馬一体の騎士といった架空の巨体モンスターを三秒以内に次々と仕留めて行く。たかが映像に何をそうムキになっているのか? 傍から見たらそう思われるかもしれない。
しかし、一秒でも遅れたら、何者かがラボに近づいているとセンサーが施設へと通報するのだ。ここで手を抜いては全てが水泡に帰してしまう。もうやけくそだ。
そして、島の北部へと進んでいくとその施設は見えた。
その位置は僕がここに来て最初にホビットが連れてきてくれた、海洋生物センターのちょうど真裏に屹立していた。センターが崖の上にあり、崖下にラボという位置設定だ。つまり島を半周以上も走った計算になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます