第48話 ニート、奮戦

 僕はアーム端末を連打して回復薬を「がぶ飲み」した。ここまで戦闘が激化すること、そして慌てておもむいてしまったため、十分なポーションを確保していなかった。あと二撃ほど加えられたら、僕の「ゲーム上の死亡」が確定する。それは引きこもりゲーマーとしてのプライドが許さねえ。


「弱みを握ってニートどもを使役する。ステージでの歌も踊りも楽しいけれど、ニートピアの楽しみ方はこれに限るわね!」


 パピヨンは手の甲を口に当て、ホーホホホッと高笑いした。


 その挙動に僕はムッしたのさ。


「今度はアンタのお漏らし姿をカメラに収めて、その命果てるまでこき使ってやるわ!」


 パピヨンとキマイラが二手に分かれると、同時に僕へ襲い掛かって来た。


 目をキョロキョロさせ、どちらを先に攻撃しようか迷った。そして、キマイラに視線を合わせると、そのモンスター目掛けて一直線に走った。


「自分のゲーム内のステータスを一番と考えたわけね。でも愚かな選択ね、坊や。実体のあるアタシを先になんとかしないと、自身の肉体が傷つくことになるわ!」


 キメラが咆哮する直前に、キマイラと同化するような位置を取った。


 モンスターの映像に触れるとダメージは受け続けることは先刻承知だ。しかし、キマイラの数多く持つ火炎や冷却、放電あるいは物理の牙や爪といった攻撃の中では、最弱であることが先ほど分かった。徐々に与えられるスリップダメージを緩和するために、回復薬を選択しながら、先にパピヨンを行動不能することに集中した。


「キマイラと同化したですってっ!」


 背後にパピヨンが迫り来る気配を感じた。振り返ると、パピヨンがパラソルで攻撃をしてくるのが見えた。


 僕はダガーの刀刃で、パピヨンのパラソルを受け止める。しかし彼女の攻撃判定は当然ペットであるキマイラには反応した。その見た目が貧相なパラソルの威力は絶大らしく、すぐさまキマイラの猛威が弱くなっていった。自分のペットを自分で攻撃したってわけだ!


 狼狽うろたえるパピヨンを僕は見逃さなかった。


 刺突してくるパピヨンのパラソルに対し身を捩りながらかわすと、僕は彼女に体をぶつけて襲い掛かった。そしてパピヨンを床の上に押し倒すと、彼女の体の上に馬乗りになった。


「ホビットの資産を返却しろ!」


 僕は両手を押さえつけて、彼女に迫った。


「何を言ってんのよ、この変態! パンストを被った変態仮面!」

 と口汚く罵って来た。この言葉に僕はカチンときたのだ。


「なら、お前も変態仮面にしてやる!」 


 そう言うと、先ほどポケットの中にしまったパンストを取り出し、腰回りの部分を両手で拡張した。


「ちょ、ちょっと何すんのよ! 止めてよ!」


「ニートの弱みを握って使役するだと? だったら同じ目に遭わせてやる! くらえッ【ホーンテッドマンション】!」


 嫌がるパピヨンの頭を押さえつけ、黒パンストをパピヨンの頭から首までスッポリと被せた。そしてパンストの足先の部分を引っ張ると、よくテレビなどでよく見かけるお笑い芸人御用達の、パンスト相撲のようにパピヨンの両目が吊り上がり豚鼻という残念な姿になった。


「うわ~ん、止めてぇ止めてぇ」


 パピヨンが泣き出す。パンストの弾力で引っ張られた彼女の目、鼻、口が、世にも酷いムッチリとした顔面になっていく。その過程を僕はアーム型端末に内蔵されているカメラで彼女の醜態を何枚も撮影したのだ。


「ゴメンナシャイ。アタシが悪かった~。何でも言う事聞くからゆるして~」


「その言葉に二言は無いな!」


「二言はごじゃいましぇ~ん」

 と泣きながら懇願するのであった。


 そのとき、僕たちがくんずほぐれつをしている部屋に何者かが乱入してきた。その人物とは黒い甲冑を身にまとった、アカバネだった。


「こんなとこで何してるの!」


 アカバネは持っていた両手鎌でキマイラを一刀両断すると、返す刀で僕の頭をコツンとやった。


「止めなさい!」と一喝されてしまう。


 僕は殴打された頭頂部を両手で押さえ、悶絶しながら床に寝転がった。


「ど、どうしてここにアカバネが?」


 不思議でならなかった。雨が降っているわけでもなんでもないのに、突如パピヨンの城塞に現れたんだから。


「そんなことよりも大変なことが起きたの!」


 僕とパンストを被せられたパピヨンが、上体を起こしてアカバネの顔を見る。


「——デブドラが死んだのよ」

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