第47話 ニートVSパピヨン

 煌々と明かりが灯されるシャンデリアの下で、僕とパピヨン、そして使役するモンスターのキマイラと対峙する。


「こんな夜更けにスーパーアイドルの自宅を訪れるなんて、これはもうストーカーね。ストーカー認定ッ!」


「別にお前なんかに興味ないが、訳あって参上した!」


 僕は息苦しくなって、被っていた黒パンストを脱いだ。それを後生大事にとポケットにいそいそとしまう。


「アンタなんかに恨みを買う覚えなんて、アタシにはこれっぽっちもないんだけど!」


「だろうな。でも僕の友達を傷つけたことは、忘れたとは言わせないぜ!」


「友達?」


「ホビットのことだ!」


「ホビット?」パピヨンの目が一瞬細くなる。「——あの小人チビのことね」


「ホビットを隷属れいぞくするためにカジノを使って罠にハメたな!」


「さあ、何のことかしらね? そもそも何の役にも立たないチビを雇ってあげているだけ、アタシは聖人よね。そうじゃない?」


「ホビットの憧憬あこがれを利用してお前は彼をハメたんだ。彼がカジノに費やした私財分、この戦いに負けたらきっちり支払え!」


「負けたら?」

 パピヨンはフハハハハと高笑いをし出した。高貴で傲慢ごうまんな娘が見せるような、いやな気分にさせる高笑いだ。


「アタシが負ける? このスーパーアイドルのアタシが? 言っとくけどこの世でもっとも嫌いな言葉が敗北なの。同期のアイドルたちとの人気レースで敗れはしたものの、再起を図るためにこんなクズどものいる掃き溜めにアタシがいることを、アナタたちは感謝なさい! このクズニートどもが!」


「お前だってニートだろうが!」

 再び僕とパピヨンが激突する。僕のダガーとヤツのパラソルで激しく鍔迫り合いを行う。

 と、そこへ、キマイラの巨体が宙に浮くように僕たちに襲い掛かる。正確には、パピヨンの体には何の攻撃判定も与えず、僕の体をすり抜けた瞬間だけ、致命傷を与えて行った。


 アーム端末が赤く明滅する。体力値がごっそりと奪われていく。僕の実際の体力と、ゲーム内の体力値、この二つの概念に気を配らなくてはならない。なんかズルくね?


「やっかいなゲームシステムだな」


「このニートザワールドでは、武器を人に向けてもダメージが通る仕組みになっているのよ。それはつまり、人の敵とは所詮人なのだと、暗に示唆しているということね。なんて親切な施設なのかしらっ!」


 パピヨンは寄り添うキマイラの体毛を撫でるような仕草を見せた。

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