第4章 ニートエモーション
第49話 暴食のニート、デブドラの死
すぐさま帰寮した僕を、ホビットが部屋の前で待ち構えていた。
僕の顔を見るなり、
「デブドラが死んだんだ」とホビットは言った。
「さっきアカバネから聞かされたよ。でもいったい何で急に……。死因は?」
「駆けつけた救急隊員の話では静脈血栓塞栓症、いわゆるエコノミック症候群だとさ」
僕はあの巨体を震わせるデブドラを思い返していた。あの巨体を維持するために必要な心臓と足腰の負担を考えると、病魔は確実に彼に忍び寄っていたのかもしれないな。
「それと関係ないが、さっき俺のIDを調べたらマイナスになっていた俺のニータの額面が元に戻っていたよ。クロパンが話を付けてくれたんだろ?」
僕は茫然としながらも小さく頷いた。
「ありがとよ。お前にそれだけを伝えたかったのさ」
そう言い残すと、ホビットは静々と自室に入っていった。
寮の廊下で独り取り残された僕は、デブドラの死が未だ信じられずにいた。そして彼の死因の一端として、自分がニートザワールドのパーティーへ誘ってあの巨体に負荷をかけたことが原因ではないか? そんなことが頭の中を過ぎる。
僕は部屋に戻りベッドに入ろうとしたがどうにも寝付けず、気が付けば食堂へと移動していた。
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厨房前のテーブルには、誰かの善意だろう。花が一輪、輪切りにしたペットボトルに入れて手向けられていた。そこはデブドラの指定席も同然の場所だ。そのテーブルを三つほど繋ぎ合わせて、即席のステージで余興を行ったことは記憶に新しい。そして持ち前の腹芸で自身の独壇場と化したあのステージは、もう二度と見ることができない。
耳の後ろからスイングドアの開閉する音が聞こえる。食堂に入って来た者は赤色のジャージを着たアカバネと、最初は誰だか分からなかったが、桃色のジャージと黒いサングラスを掛けたパピヨンだった。島内のスーパーアイドルが施設に姿を晒すのは、信者たちのパニックを引き起こすことになる、という理由でサングラスをしていると、あとで聞かされたけれど、ちょっと自意識過剰じゃね?
僕はパピヨンの姿を見るなり咄嗟に身構えた。彼女が報復しにきたと思ったのだ。
「別にアンタに復讐しにきたわけじゃないわよ!」
パピヨンはジャージのポケットに手を突っ込んだまま言った。
「じゃあ……何?」
僕の問い掛けにアカバネが一歩前に出た。
「ここで話すのもなんだから、場所を変えましょう」
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