第45話 ニート、パピヨンの城塞を攻略する
装備を一式そろえると僕は冒険者ギルドの外に出た。レベルは四十を超え、装備も中々派手になって来ていた。ジョブの盗賊らしく漆黒の装束に、武器は「両手装備」のスキルを取得し、「神々の(ジャッジメント)ツインダガー」という、ニートザワールドでも高値で取引されている得物に持ち替えていたのだった。
と、闇に紛れて僕に近づいてくる者がいた。——ドールだ。
「ドール……」
思いがけない来訪者に僕は少し驚いた。
「替えのパンツが必要かと思って持ってきた」
ドールが僕の目の前に、白いブリーフを差し出した。彼女にしては随分とユーモアが効いている。
「そいつは有り難いね」
僕は笑顔でブリーフを譲り受けた。そしてドールが僕についてこようとした。
「ドール、ここから先は僕だけが行く。ホビットの
反対されるかと思ったが、ドールは素直に応じてくれた。そして、寄り添うようにして僕の背中に頬をくっつけると、
「パピヨンはその気になれば、ニートモの一人を廃人にすることくらい造作も無い。本音を言えばね、ホビットのことなんてどうでもいいんだ。ボクはキミさえ無事でいてくれたら、それで満足だから」
と、ドギマギするような行動を取ってきた。何、この胸熱な展開は?
けど、男ならば立ち上がらなければならないときがある。
「大丈夫、僕は必ず無事に帰って来るから」
僕はドールの頬にそっと触れると、駆け足で町を出た。
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パピヨンの城塞は四階部分のみ灯りが点いていた。さすがに夜だ。本人がいることは間違いないだろう。
宝石を散りばめたような満点の夜空。風と夜陰に紛れて、パピヨンの城塞の前で僕は佇立した。
そして正面の扉へノックを三回すると。扉は開錠音を鳴らした。先日訪れたときに、ノックの回数によって扉が反応することが分かっていた。
扉を開けると、陽に当たったバターのように顔が溶けたモンスターが二匹、門番のように待ち構えていた。僕に近づくと、
「通行証ヲミセロ!」
と機械的な音声で告げてきた。
僕は足が竦み、ヒィと悲鳴を上げそうになった。しかし、僕はグッと堪えると、ポケットの中から、ある物を取り出し頭からすっぽりと被った。
そう。「黒い宝石」と心の中で呼んでいる、ランドリー室で拾った、というか拝借した黒パンティーストッキングを頭からすっぽりと被ったのだ。ストッキングの繊維のお蔭で、視界を少しだけぼやけさせることができた。そのせいで見た目は一昔前の銀行強盗のような恰好になっちゃうんだけど。
「これで、お前らの姿をまじまじと見なくても済む!」
僕はツインダガーを両手に握ると、モンスターの体を切り付けた。
攻撃力、そして聖属性の効果は抜群であった。体力値の高いモンスターではあるが、僕は一刀の下に二体のモンスター仕留めることができたのさ。
城塞内にけたたましい警報音が鳴り響き、赤い警告灯が明滅を繰り返した。やっこさんもヤル気満々みたいだ。
すると城塞内部の棺桶からモンスターたちが溢れて来る。それだけではない。階段からも、そして小部屋からも、死霊系のモンスターが出現してきた。
無論どれも実体が無い映像のため、仄かにピンク掛かった蛍光色を発している。映像とは言え、番犬代わりには十分な役目を果たす。それくらい気味の悪いモンスターだよ、まったく。
「よくこんなところでパピヨンは暮らせてるよな!」
口を動かすたびに黒い繊維が口の中に入ってくる。しかもどうにも息苦しい。
「黒パンストのランガード(*)がちょうど視線に位置して、絶妙な視認性を与えてくれる! 前が見えないようでいてギリ見えるという絶妙な加減が!」
黒パンストが見せる「見えるか見えないか」ギリギリの視野のお蔭で、凶悪なモンスターの面を拝まずに前に進むことができた。
しかも襲ってくる敵のなんとも美味しい経験値のこと。ソロで取得できる値にはボーナス値が付与されないが、それでも一体を倒すたびに、多額の経験値とニータを得ることができた。
注釈(*)
⇒パンティ部とレッグ部との切り替わり部分にある黒くて太い線のこと。伝線防止のために施されてあり、他の生地より少し厚め。
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