第44話 ニート、ホビットを問い詰める
その日以来、ホビットは僕を避けるようになっていた。
食堂で顔を合わせても、「忙しい忙しい」と言っては、取り合ってもくれなかった。
そうして帰寮する時間はだいたい深夜となっていた。
僕は彼のことを心配していたという訳ではないけれど、なぜそのような態度を取るのか、それが気に入らなかった。
僕は決断をし、彼の後をつけた。——行き先は予想通りカジノだった。
彼がゲームテーブルでブラックジャックを興じているところに、素知らぬ顔をして 僕は隣の席へ座った。
「先日のパピヨンのステージは凄かったね」
僕は他人を装ってホビットにこう声を掛けた。
「だろ? パピヨンの歌やダンスは一流さ。それに俺のダンスだって、キレッキレだったろ?」
ホビットは配られた手札に歓喜しながらそう答えた。そしてテーブルを人差し指で叩いて、
「でも演者として出演するなら、一万ニータのチケット代って、全く必要ないよね」
その言葉にホビットはすぐさま反応した。そして左隣に顔を向けると、
「ク、クロパン」
と、声を絞り出すのもやっとという感じで言った。「なんだ。この前の土曜、お前も観に来ていたのか?」
ホビットの前に置かれていたコインがディーラーの手によって没収される。
欲をだして「21」を狙い過ぎたため、ドボンしたようだ。
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「これには深い訳があるんだ」
カジノの喫茶ルームで、テーブルの上に額を擦り付けてホビットが謝った。
「俺がパピヨンの元で働いていたことを内緒にしていたのは、いつかお前をライブに招待して、驚かそうと思っていたからだ。こんな小さな体を持った俺でも、いっぱしに働くことができる。それをお前に証明したかった。ただ、それだけなんだ」
「そんなことはどうでもいいよ」
僕は首を横に振り、目を細めた。
「結局ギャンブルにうつつを抜かして、借りた金の返済もままならない。だから僕を避けていた。そういうことなんだろ?」
ホビットは僕の言葉に何度も頭を下げた。
「いや、借りた金はちゃんと返す。だからもう少し待ってくれ」
「本当はね、お金のことなんてどうだっていいんだ」
「なんだと?」
「ニートピアという異世界に放り込まれたとき、最初に手を差し伸べてくれたのはホビット、キミだった。貸したお金はその時の謝礼金みたいなものさ。だから返済なんて、正直どうだっていいんだ。ただ、このことが原因で僕たちの仲がギクシャクするなら、今後お金の貸し借りはしない方がいいと思う」
僕の言うことに、ホビットは黙って聞いていた。
「ただ、あのステージを観たとき、僕は残念だと思った。確かにホビットはステージ上で躍動していたかもしれないけど、パピヨンはキミをモンスターとして扱い、それを観衆に晒しているようにしか見えなかった」
「違う、それは誤解だ。クロパン」
「ちなみに、ステージ出演分の報酬はちゃんともらってるの?」
「ああ……もちろんだ」
「先日パピヨンに会ったよ」
ホビットが「え?」という顔を見せた。
「彼女は言っていた。『チームに入れば多額の報酬は約束する』と。その言葉が事実なら、キミは僕に借金を申し込む必要はないじゃない」
ホビットは無言だった。
「パピヨンは寮長という立場、そしてその豊富な資金力からニートザワールドでの一切の権限を有していると、本人が語っていた。ちなみさっきブラックジャックでのホビットの手札を見たけど、決して悪い内容じゃ無かった。でも、結果は見事なまでの負け……」
下を俯いているホビットの顔を、僕が覗き込む。
「カジノはおそらく
僕の問い掛けに、体を震わせホビットは嗚咽と共に涙と鼻水を垂らした。
僕がウェイトレスを呼び止め、支払い《チェック》をお願いする。
ホビットの首から下げていたIDカードをウェイトレスに差し出すと電子勘定機のセンサーに通す。するとピーというエラー音が鳴って、
「申し訳ありません。こちらのカードでのお支払いは不可能となっております」
とデジタル表示を提示してきた。示されたニータの残金は大幅なマイナス額となっていた。
「ごめんなさい。ではお支払いは僕のカードで」
僕は自分のIDカードをウェイトレスに差し出して勘定を済ませた。
僕はホビットのIDをテーブルの上に置くと、
「先に寮に帰っていて」と彼に告げた。
「ど、どこに……行くんだ?」
涙に暮れた声でホビットが訊ねた。
「決まってるだろ。キミを苦しめた張本人の元へだ」
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