第43話 色欲ニート、パピヨンのライブ

 ライブはすでに開始時刻を過ぎており、人と照明のせいで熱気を帯びていた。


 およそ三百名。施設内のニートモの数を考えると約半数以上の人間が、動員されている計算になる。


 熱量の高いスポットライト。心臓にまで響くような巨大スピーカーからの音量。そして舞台装置ギミック。その全てが本格的であり、小さなメインホールの中は、一流ミュージシャンが演奏しても差し付かえないほどの豪奢な舞台が用意されていた。


「パピヨンの死亡遊戯スリル」というタイトル通り、舞台の上は墓場をイメージしたセットが作られていた。


 僕は立見席の会場後方からホビットを探す。しかし、彼は背が低いため、当然ここからでは目撃することはできない。


 激しく鳴るリズムの中、縫うようにして人の波を移動するが、それでも彼の姿を見ることができなかった。ライブ自体にはさほど興味が無い。僕はもう帰ろうかと思ったそのときだった。ホビットの姿を会場の中でも一等の特上席で見かけたんだ。


 照明が一度落ち、再び青白いライトが舞台を照らしたとき、彼が舞台の袖から現れた。——演者としてね。


 ホビットは不気味に光るカンテラを持ち、舞台上の演出物である墓場の墓石を照らす。すると、先日襲われたゾンビが墓石を横にスライドさせて、次々と舞台の上に現れる。そこへ舞台がせり上がり、紫色の衣装を着たパピヨンが現れ、ゾンビやホビット共に、激しいダンスを踊る。聴衆たちはそのダンスに魅了され、手拍子と歓声で彼女たちを応援する。


 ホビットの活躍はそれだけではなかった。


 ライオンのマスクを被り、着ぐるみを着用して、炎の輪をジャンプしてくぐるという危険な芸当も見せた。その光景は僕にはどうしても、道化としか映らなかった。まるで貧しい家庭の生まれである少年が、サーカス団へと身売りされ、命を削るようにして無理やり曲芸を仕込まれる。舞台で躍動する小さな姿を、僕はそんなことを考えながら悲しい眼差しで見ていた。

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