第42話 ニート、ホビットを怪しむ

 時が経ち、やがて土曜日になった。


 今週はドールと常に行動を共にした。食堂からニートザワールドと、大浴場を除けばほとんどの場所で同じ時を過ごした。


 対照的にホビットとデブドラとは疎遠になっていた。

 特にデブドラは体調が悪いらしく、ランドリー部はおろか食堂にさえも姿を現さないでいた。


 ホビットは勉強に夢中らしく、寮室の前で会っても、


「俺が大海原に出る日も近いな」

 と言ったきり、夜遅くまで帰ってくることは無かった。


 そして朝食後、先日ニートザワールドでパピヨンに出会ったことを話してやろうとして、本館三階にある図書館を訪れたが、そこにホビットは居なかった。

 寮の外で待ち合わせしたドールに、それとなくホビットの話をすると、


「彼なら朝早くに周回バスに乗ってどこかに出かけたよ」

 と告げられたのだ。


「朝っぱらからどこに?」


「さあ」


 ドールは両手の掌を上に向け肩をすくめた。


 こうして今日も一日ニートザワールドでレベル上げを堪能した僕たち二人は、夕方にはパーティーを解散し、互いの寮へと帰寮した。


 ふと、ホビットの動向が気になりだした僕は、かつて組分けヘルメットを被らされたメインホールへと足を運び、その入り口でホビットを待ち構えることにした。今日、ここでパピヨンのライブイベントが行われるという。


 ホールの入り口には『パピヨンの死亡遊戯スリル』と題された横長の看板が堂々と掲げられていた。その周辺にはグッズの販売も本格的に行っており、ファンによる長蛇の列ができていた。てか、本当に見ごたえあるの?


 開園の一時間前から入り口で待っていたものの、彼がそこに姿を現すことは無かった。


(すでに中へとはいっているのかも)


 僕は入り口のゲートに向かい、

「当日席はありますか?」

 とゲートの人間に訊ねた。

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