第41話 ニート、冒険者ギルドで装備を更新する

 翌日、仕事が非番だった僕は冒険者ギルドで身支度を整えていた。


 レベルが上がったことにより、それまで稼いだニータを使って、装備を一新した。


 まずはローグ専用の軽装備に武器は刻印の入ったダガー。しかも属性は聖属性と注意書きがされている代物だ。先日、パピヨンの城で死霊系のモンスターに襲われたことを教訓にして、死霊系に強い属性武器を買った。


 そこにドールが現れる。ドールもまた、装備を新調していた。司祭系の服でいかにも聖職者といった雰囲気が出ていた。


「おはよう」


「おはようクロパン君」

 彼女は笑って答えた。


 僕は常にアカバネのことを考えてきたが、昨日のことも含めて、ドールのことが気になり始めていた。


 彼女は体型こそ女性そのものではあるが、心の中は男という複雑な事情を抱えていた。しかし、行動を共にするうちに、友情のような、恋情のような気持ちを彼女に対して抱くようになっていた。僕の浮気者!


 ドールが新調した衣服には、そのことを改めて思い知らせるだけの効力があった。絶対に着用しないと言っていたスカート姿を、ロングタイプではあるが、履いていたんだから。


「なんだか、その……カッコイイというか、可愛いよ」

 嫌な顔をされるかもしれないのを承知で僕は思い切って告げてみた。


「そ、そう? キミに褒めてもらえるとボクは嬉しいよ……」

 ドールは照れて見せた。


 僕は周囲を見渡す。

「デブドラは?」巨漢の彼がどこにもいない。


 ドールが首を振り、

「どうも体調が優れないって」

 とデブドラが同行を断って来たことを告げた。


「昨日、無茶させたかな?」


「うん、それもあるかもしれないけど、最近何だか動悸や息切れが激しくて、歩くのもやっとみたい」


「食べすぎじゃないかな?」


 僕はデブドラの体型を思い浮かべながら言った。


「うん、でも先日もね、何やら訳の分からないことを口にしていたし、とにかく孤独になることを酷く恐れるんだ」


「孤独?」


「そう。パニック障害って言うのかな。とにかく独りになることを恐れる。だからいつも子分を引き連れたり、腹芸を人に見せたりしているんだろうけど」

 元々厭世的な意味合いから引きこもることを「ニート」と呼ばれる群にあてはめるのに、ドールの言い方ではまるで、人の温もりを求めているかのようじゃないか。


「ニートピアで過ごすことでもたらされる、良い効果であるのならいいのだけれど」

 とドールは言ったが、果たしてそれが施設側の思惑なのかどうかまでは分からなかった。


「で、ホビットは?」

 今度はドールが訊いてきた。


「実はホビットも今日は、というか今週いっぱいは忙しいから無理だってさ」

 と昨日カジノの入り口で見かけた彼の姿を思い出した。


 するとドールは周囲を見渡しながら、僕の方へ肩を寄せてきた。

「あまりこんなこと言いたくはないけど、ホビットには注意したほうがいい」

 とドールが小声で言ってきた。


「ホビットが、どうして?」

 僕は苦笑いをした。「あんなちんちくりんのヤツだぜ。一体どこに注意しろって」


 元々ドールは人形のように感情を露わにしないタイプの人間だ。けれど、この時ばかりは怖いくらいの顔つきを見せて、


「彼には良くない噂が常に付きまとっている。深入りするとキミまで危うくなるよ」

 と警告してきた。

 その真剣な眼差しに気後れして、

「あ、ああ。分かったよ」

 と言ったきり言葉があとに続かなかった。


「でもボクはその……キミと二人で行動できて嬉しいんだけどな」

 とドールが顔を赤らめて言った。


「え?」

 僕が聞き返すと、


「ほら、時間がもったいない。早くフィールドに出ようよ!」

 とドールは僕の背中を両手で押した。

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