第29話 ニート、憔悴する
僕は夢の中で、通っていた学校を想い出していた。
微笑みかけてくる美少女のクラスメイト、試験前にノートを貸し借りする間柄、たわいもない談笑。全てが懐かしい。いや、そんな思い出なんてない。全て僕の妄想なんだけど。そして教科書を机の中から取り出そうとしたとき、なにやら黒いモコモコしたものが出てきた。それを目の前で広げて見ると、
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「おい、おい!」
僕はうっすらと目を開けると、そこにはホビットが立っていた。
「大丈夫かクロパン。ここ最近、ろくにメシも食っていないだろ? せめて夕食くらいはしっかり摂らないと」
日もとっぷりと落ちたある日、僕は食堂でうつ伏せになって寝ていたようだ。
毎日少ない睡眠を
「デブドラの腹芸が、お前を相当苦しめているんだな?」
「ああ」
僕は頷いた。
「部屋を変えられてしまったことは申し訳ない」
ホビットが頭を下げてきた。
「ホビットが悪いわけじゃないよ」
「しかし妙だな」
ホビットは首を傾げた。「腹の皮が
「そこがデブドラ……という男の恐ろしさなんだろ?」
僕はお茶の入ったコップを片手にしながら、うつらうつらと船を漕いでしまう。
「やはり奇妙だ。何か催眠術のようなものを掛けられているとか、心当たりはないのか?」
ホビットの問い掛けに俺は目を右上にスイッと動かした。
「心当たりなんてのは……無いな。いや、待てよ。そう言えば、最後に腹芸を見せられたとき、僕は四人に囲まれてヤツらの贅肉を無理やり拝まされていたが、あのときは前ほど笑い転げなかったんだ。なぜかは分からない。恐らく腹芸の直前に体を揺さぶられていたから、その衝撃で意識が朦朧としていただけかもしれないけど」
僕は目を
フラッシュバックでヤツの腹がタプンタプンと揺れる。贅肉と贅肉の間に何かが潜んでいる気がした。しかし、それが何かであるかは分からない。
「まあ、ここは景気づけに二人で乾杯だ。何が飲みたい? 買ってきてやるよ。俺は勿論コーラだが」
「ホビットって相変わらずコーラが好きだよね?」
「ああ、赤い物を見ただけでそれがコーラに見えてしまう。こういうのをパブロフの犬っていうのか、それともサブリミナルっていうのか? それくらい愛飲しているな」
「ホビット……今、なんつった?」
「あ?」
「今、何て言ったよ?」
「何て……クロパンの景気づけのために乾杯しよかと……」
「そこじゃない、最後に言った言葉だ」
「パブロフの犬かサブリミナル効果の影響でコーラ好きに……」
「それだ!」
そう言うが早いか僕は立ち上がると食堂を後にした。向かう先は僕の自室だ。
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