第28話 ニート、疲労困憊の日々

 こうして僕は四六時中笑い続け、食事も睡眠も満足に取れないまま、疲労困憊ひろうこんぱいの日々が続いた。


 そして今朝も防具屋のランドリー室では洗濯作業が終わりそうな頃合いを見計らってデブドラたちが室内に入ってきた。


「ハァハァ、いやあ本当に移動が大変ですねえ」


 デブドラは僕を見つけるなり、僕の肩に手を置く。


「ではクロパンさん。今日も——」


 僕はデブドラの手を払いのけた。


「おやおや、どうしたんです? 今日はご機嫌がよろしくない?」


「もういいだろ」

 僕は小声でぼそっと呟いた。


「え? どうしたんです。声が小さくて聞こえませんよ」


「もういいだろって」

 僕は日頃の鬱憤を晴らすかのように声を荒げた。


「おやおやこれは相当ストレスが溜まっているようですねえ。ドールさん! あまりクロパンさんを働かせすぎてはいけませんよ」


 デブドラはアイロン掛けをしていたドールにこう言い放った。


「違うよ。ストレスの原因はなあ……お前だこのデブ野郎!」


 咄嗟だった。思考力ゼロの状態だったと言ってもいい。僕は『ウタマロ石鹸』を握りしめたまま、デブドラに殴りかかっていた。


「暴力はいけませんよ!」


 デブドラは素早くジャージを肌蹴さすと、僕が正面に突き出した握りこぶしを腹の贅肉で包み込んだ。


「これぞワシの秘技【スペースマウンテン】!」


「ウッ!」


 僕のこぶしとウタマロ石鹸がヤツの贅肉の間でぬらぬらと動いた。するとまるで吸い寄せられるように僕の肘が、そして腕全体がデブドラの腹の中に取り込まれていく。


「前にも言いましたでしょ、ワシの腹は宇宙ですと」

 腕が完全にデブドラの腹の中に取り込まれてしまった。


「クソッ、離せ!」


 デブドラの腹から腕を引き抜こうと何度も試みたが、まるでビクともしなかった。


「無駄ですよ。それにしても暴力を振るうとは人としてゆるせませんねえ。こういう人はお仕置きをしなくてはなりません」

 そう言うと、デブドラは両手を左右一杯に広げた。そして、


「【ビッグサンダーマウンテン】!」


 突然デブドラがそう叫びながらその場でジャンプし始めた。腕を腹の中に取り込まれていた僕は、ヤツと一緒に強制的に飛び跳ねるハメとなる。


「ガハッ」


 膝と腰が痛くなり、頭の中がグラングランと揺れた。僕は右腕をデブドラの腹の中に預けたまま、膝を床について倒れてしまった。


「今まではアナタの体調を考慮してワシ一人の腹芸で済ませていたのですが、今日は迷惑を掛けた分、ワシの子分たちにもいい思いをしてもらいますからね」


 それを聞いた子分たちは小躍りした。


「では今日は五人でたっぷり楽しみましょうかねえ」


 僕は腕を腹に取り込まれたまま、洗濯機裏のいつもの場所へと移動させられた。そしてデブドラだけではなく、子分の腹芸までをたっぷりと味わうことになった。


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