第8話 旅行券

「悠斗ーー、ちょっと良い?」



悠斗の部屋に訪れる。



ガチャ

脱衣場のドアが開いた。



「はいは〜い」

「きゃあ!」



私は背を向ける。


どうしてか?って…悠斗が上半身裸の状態で私の前に現れたからだ。




「あっ!ごめん。で?何?」


「そ、そ、その前に洋服着て!」


背を向けたまま話をする。



「え〜っ!やだ!」

「やだ!じゃなくて!目のやり場がないから!」

「減らないから大丈夫!」


「いや…そういう問題じゃなくて、私が困るから洋服着てって言ってるの!」


「パンツも一応、洋服でしょう?」


「ち、ち、違…た、確かに、そうなんだけど!上を着て貰わなきゃ振り向けないから!」


「はいはい。もう恥ずかしがって可愛い〜。はい、大丈夫。着たよ。それで?用件は?」


「…えっと…」




「………………」



「や、やっぱり良い…部屋に戻る」

「えっ?藍里?」



私は部屋に戻り始め、部屋の外に出ると自分の部屋のドアの前に立つ。



「…無理だ…一緒に行こうって…その一言だったんだけど……」



私の手元には、一泊二日の温泉旅行券があった。




スッ


私の手元から券が引き抜かれる。




「えっ?」


「何、何?水くさいじゃん?」




ドキッ


至近距離にある悠斗の顔に胸が大きく跳ねる。




「悠斗っ!?」


「これ誘うつもりだったんだろう?」


「えっ…?あ、いや…」


「違うの?」


「…ち、違わないけど…」


「じゃあ、行こうぜ!せっかくの券、無駄にする気かよ。もったいないじゃん!」


「行ってくれる?」


「もちろん!遠慮なく言ってくれて良いから」




私達は、出掛ける約束をした。






そして当日―――――




「いやー、実はさ、ゆっくりしたかったんだよね。俺」


「そうだったんだ」


「そう!ここ最近、仕事、仕事で体休める暇なくて、有給3日使う事にして休み貰っちゃった♪」


「そうなんだね。それなら良かった」


「いや〜、感謝するよ。藍里。サンキュー」


「そ、そんな…私こそ付き合ってくれてありがとう」




私達は色々と話をしながら向かうのだった。




そして…夕方。



「いや〜、女の子の浴衣姿ってそそっちゃう♪!」


「えっ?」


「いや〜、いいね、いいね♪」




見つめる悠斗に、恥ずかしくなる。



「そ、そんなに見ないでよ!」


「可愛い〜♪照れちゃって!」


「悠斗っ!」



私達の夜は更けていく。




そして、更に夜も更けた頃、ふと私は目を覚ます。


すると、窓際でぼんやりと外を眺めている悠斗の姿が視界に入った。




「…悠…斗…?」


「藍里、どうかした?怖い夢でも見た?」


「ううん。見てないよ。ていうか小さな子供じゃないんだから」



私はクスクス笑う。



「良い大人も怖い夢は見るよ」


「まあ、そうだけど。私に関しては違うよ」


「そう?」


「うん」




私は悠斗の側に歩み寄る。





「悠斗」


「ん?」


「悠斗は彼女…つくらないの?」


「えっ?」


「あ、ごめん…余計なお世話か…。悠斗、カッコイイから彼女いてもおかしくないって、いつも思ってたし、感じてたから」




微笑む悠斗。



「周囲から良く言われる台詞」


「でも…好きな人の一人や二人くらいはいるでしょう?」


「好きな人も彼女も一人で良くない?」


「それもそうだね」


「でも…もう特等席は藍里だけのものだから、もう空きはないから」


「えっ…?…だったら…その特等席は私以外の誰かに譲ってあげて。私は大…じょぅ……ぶ…」




オデコにキスをされる。



ドキン…



「それは出来ない」

「えっ?どうして…?」

「どうしても。さあ、布団に戻って」




私は悠斗に抱きつく。




「どうして…?ねえ…悠斗…私が、こんなだから?もしかして、それが理由で悠斗は彼女もつくらないし、好きな人もつくらないの…?私が原因なの?」


「違うよ」



私は体を離す。




「だったら…恋して!彼女つくってよ…!同情とかなら…そんな優しさは要らないから…」




私は背を向けると布団に戻り始める。



グイッと引き止め背後から抱きしめられる。


私の胸が大きく跳ね、一瞬強張るも私の胸はドキドキと加速していく。




「悠…斗…?」


「藍里の中で…俺の存在は…どんな存在?友達?異性として、一人の男として見てくれてるの?」




振り向かせる悠斗。



「…それは…」


「悪い…気にすんな!」



軽く押し退けるようにすると、私を半回転させ、布団の方に行くように促した。


私は渋々、布団の方に移動するのだった。




私達の関係は


縮まりそうで


縮まない


微妙な距離感があった


でも何処か


お互い


恋愛感情と


友達という感情と


自分の思いと


葛藤していたのかもしれない


























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