第5話 特等席〜あなたを信じてもいいですか?〜
後日、利緒さんが謝ってきた。
利緒さんも、合コン相手が、まさか、そういう人達だと知らなかったみたいで、ごはんでも奢らせてと言って来たけど、お断りした。
別に悪気があったわけじゃないから、利緒さんを恨む事もなく、普段通りに過ごす事にした。
数日後の夜―――――
「藍里!」
「うわっ!ビックリした!倫歌!」
仕事終わり、職場を出てすぐに倫歌が待ち伏せしていた。
「今から友達と飲みに行くから付き合って!」
「えっ!?良いっ!辞めとく!」
「合コンじゃないから!私が、一人じゃ嫌なの!」
「えっ?」
「男の人で…ちょっと良いな〜って思っている人だから緊張して…だから…お願い…藍里…」
どうやら嘘ではなさそうだ。
疑うわけじゃないけど…
私は、倫歌に付き合う事に。
そこには、二人の男の人がいた。
その内、一人はまさかの相手だった。
「藍里、紹介する、荘深 正弥(そうし まさや)君と、その友達の久陵 悠斗君」
「君は、確か以前、合コンで、ご一緒だった」
悠斗さんが言った。
同じマンションで隣人であるにも関わらず、いつも顔合わせてますよ!みたいな素振りは一切見せない姿に突っ込みたくなったけど…
「あー、どおりで見た事あると思った。で?いつの合コン相手?」
「おいっ!」と、突っ込む悠斗さん。
私はクスッと笑ってしまった。
時々、見せてくれる素の悠斗さんの姿。
何処かチャラっぽいけど、凄く優しくて頼りになるお兄ちゃんみたいな悠斗さんなんだけど、私の心を安心させてくれるような…
私の中で悠斗さんは、違う意味で大きくて支えてもらっている気がする。
自分の色々な部分を見せている相手だ。
まだまだ、心は開けない感あるけど、私の事を少しは理解してくれてるような気がする。
私達、4人は飲む事にした。
その日の帰り――――
「悠斗さん」
「ねえ、その悠斗さん辞めにしない?2つ違うだけなのに」
「…でも…」
「その様子じゃ無理そうだね?」
「すみません…」
「敬語も相変わらず」
「ごめんなさい…」
「いやいや…謝らなくても…それで?何か聞きたい感じ?」
「眼鏡…」と、私は言うと足を止めた。
「えっ?」と、悠斗さんも足を止めた。
「もったいない気がする。だってカッコイイし、モテてもおかしくないはずのあなたが彼女募集中なんて…本当なら彼女がいるはずの容姿……」
私は悠斗さんの眼鏡を外す。
「…あ、藍里ちゃん…?」
「どうして?眼鏡…?いつから?」
「あー、学生の時から」
「学生?それは実はモテていたから?」
「どうかな?」
「ご、ごめんなさい…私には関係ない話ですよね」
私は眼鏡を渡すと歩き始める。
「藍里ちゃん、立候補しとく?」
「えっ?」と、足を止め振り返る。
「俺の特等席」
「特等席?」
「そう。今は、まだ、立候補者いないから、1番目だよ」
「…1番目…。……じゃあ…私より良い人現れたら私、1番目の特等席じゃなくなりますね?」
「えっ…?」
「世の中に…どれだけの出会いがあると思いますか?」
「……藍里ちゃん…」
「私は大丈夫ですよ!特等席なんていりませんから」
私は歩き始める。
「………………」
「藍里ちゃん!なあ…もう少し…いや…もっと自分の思いを出して良いんじゃねーの?」
私は足を止めた。
「自分から壁作ってどうすんだよ!もっと、俺に頼ってくれれば良いじゃん!」
私は振り返る。
「俺だけに色々な部分見せてるんじゃねーの?…男の人が苦手なのに他の男(やつ)に今の自分見せる事、出来んのかよ!…もっと俺にだけは見せろよ…!…朝乃 藍里という、自分自身を…一人の人間として…俺には全てさらけ出せよ…俺が全て受け止めるから…」
「………………」
私は図星だったのか痛い所突かれたと感じ涙がこぼれそうになった。
悠斗さんは歩み寄ると私を抱きしめた。
ビクッと体が強張る。
「大丈夫…抱きしめるだけだから…」
私はゆっくりと手を伸ばし悠斗さんをそっと抱きしめた。
私の事を気遣って、いつも安心させてくれる。
本当は、凄く面倒くさいはず。
それなのに………
「無理すんな!俺にはありのまま出しな。藍里ちゃん」
私はぎゅうっと抱きしめ返す。
彼の事信じて
もっと
歩み寄っていい…?
私にとって
彼は
私のかけがえのない存在に
なる時は来る……?
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