進んだ道はもう戻れない


お風呂から上がり寝る準備をすませた後リビングを覗くとゆうはまだゲームをしていた。「先に寝るね。ゆうも早く寝なよ。」私は先に和室に行き布団にダイブをした。「わかった。おやすみ」こちらを見ることなく返事をしてるというゲームにかなり集中している。特に課金しているというわけでもないので、自分の時間にゲームをするゆうをあまり責めることはできない。本当は会話もしたいし一緒にテレビをみて笑いあいたいしイチャイチャもしたい。遠距離のときは泊まりに行くとゲームはしてなく私にずっと構っていた。料理しているときもずっと隣にいて会話をしていたのに、同棲での生活では距離がある。物理的に距離があった方が心は近かった気がする。

『おっ返信きてる。レス早いな。〈さやさんですね。俺はきいって呼んでください。さやさんはなにか趣味とかありますか?〉趣味、なんかお見合いみたいだな』くすっと笑い自分の趣味を考える。昔から人混みや日差しが苦手なので休みの日は基本的に本を読むか漫画を読んでいた。出かけても本屋にいって2時間とか入りびたり立ち読みというよりは絵や冊子をみて楽しんでいた。






           ー趣味って本読むこと、って地味?ー



いろいろ考えた結果趣味は本を読むしか思い浮かばなかった。『えっと、〈趣味とよべるかわからないんですけど、休みの日は小説読んだり漫画を読んだりしてます。〉でいいかな。まじめすぎるかな。』この後付き合う未来はないのに一生懸命好きな人にメールを送るみたいな感覚にウキウキしていた。メールを送った後、リビングからゆうが洗面所に向かう足音がした。『おっゆうがくるから寝ないと。確認はまた明日するか。』私は携帯を閉じ気になる返信を待ち遠しく思いながら眠りについた。寝つきはいい方で、気づいたら次は朝の起きる時間だ。ゆうはいびきがすごいので、先に寝付けなかったときはいびきの音でなかなか寝れない。朝はかなり機嫌が悪く起きるので目覚ましも嫌いだが、起きれなかったら困るので仕方なくかける。





           ーまた来るいつもの朝より色がついているかもー





ピピピッピピピッ、不快な音を消して時計を確認する。『んー今日も朝が来た。お弁当と朝ごはん作らないと。』重たい体に鞭をうちなんとか起き上がってリビングのソファーに腰をかける。起きてすぐに体は起きないのでとりあえずソファーに腰を掛けて携帯を触る。『昨日の返事来てるかな。』いつもはニュースや電子漫画を読んだりするが今日の朝は一番に昨日の返信を確認していた。『あっきてる。いいねもたくさんきてるなー。私ってモテるの?なんか勘違いしそうになっちゃう。〈本を読むのが好きなんですね。あまり小説は読まないんですけどちなみにどんなものを読まれるのですか?〉か、すっごく丁寧な文章で感じのいい人だな。』確認したメールはかなり丁寧で言葉遣いもよく、読まないなら興味はないはずなのに私に合わせて質問をしてくれることにかなり好感をもてた。『〈本はミステリー系を好んで読みます。きいさんはなにか趣味とかあるんですか?〉これでいいかな?さて、現実に戻ってお弁当でも作りますか。』ソファーから立ち上がりお弁当を作るために冷蔵庫の中身を確認しに行く。





             ー今日は少しだけ傷が癒されたー




いまだに私はゆうとの以前の話し合いの傷が癒えていない。あれからも音沙汰なく毎日ほとんど同じ日々を過ごしている。そこに少し刺激があるだけでよく効く傷薬を塗ったみたいな効果を発揮してくれていた。がらがらっと音がしてゆうが起きてきたのがわかった。「おはよう。今日も一段と暑いけどもう少しでお盆で休みだから頑張れるわー」背伸びをしながら洗面所に向かい独り言なのか聞いてほしいのかわからないが話しながらトイレに入っていった。『お盆か。辻井家には帰れないしきっと成林家にお邪魔することになるんだろうな。』卵焼きを巻きながら今年同棲始めて初めてのお盆のことを考えた。お弁当のおかずをお皿に乗せて、冷ますために冷蔵庫に一度入れる。ご飯は先に冷蔵庫に入れて冷ましておいたのでお弁当のおかずが冷めるまで、今度は朝ごはんを作る。本日のメニューは焼き鮭とお味噌汁と納豆だ。普段朝はパン派に私は和食のメニューのレパートリーがない。しかし、ゆうが文句を言ったことがないのでこれでいいのだろう。




            ー今日も滞りなく進む日常ー



ゆうを無事に送り出した後、私は久しぶりのお休みだったので一人の時間を有意義に使おうと家事を片付けて行こうと順番を確認していく。『洗濯をして、食器をして、掃除機をかけて、布団をほして、いや、布団を先に干すかな。』ゆうが土日にいて一緒にやってくれたらいいのだが、出掛けたがるのでなかなか家の掃除がいつものことしかできない。なので、仕方なく平日の私がパートの休みの日を使って普段いきわたらない掃除や布団を干したりをすることにしていた。『シーツとカバーと洗濯をして、手拭きも洗濯だな。』大きいものも今日は洗濯をするので外して洗濯機へ放り込んでいく。枕カバーはこまめに洗濯をしているので今日はしない。『次は布団を干して、うーんよく晴れていい感じ。ファブリーズをしてっと。』洗濯関係は実家で小さいころからよく担当でやらされていたので大人になっても苦ではなく家事の中では結構好きな部類に入る。





            ーなんだか気分がよく家事もはかどるー



ある程度の家事を終え、お昼も近かったのでご飯を食べることにした。『今日は焼肉丼でいいや。」ゆうがいないと料理をできるだけしたくないので袋めんが多いのだが、学生の頃、卒論で忙しすぎて袋めんばかりを食べていたら、当たり前なのだが胃が荒れ肌荒れもひどくなり太って大変だったので、本当によくないなと思いめんどくさくても袋めんには頼りすぎないと自分で決めていた。しかし、自分だけのための料理は面倒なので切って焼くだけなど工程の少ない料理でご飯をすますことが多い。パートの時はお弁当を持っていくのでゆうのを作るときに多めに作る。パートじゃないときもそうすればいいのだが、どうも仕事じゃないときのお弁当は食べる気にならない。『さて、できた。食べよう。』席に着きテレビをつけて先に携帯を確認した。真っ先に確認したのはもちろん出会い系サイトだ。『おっ返信きてる。〈ミステリーはたまにドラマで見ますけど犯人を予想したりして面白いですよね。大体はずれてるんですけど。俺の趣味は珈琲が好きなのと甘いものも好きなので喫茶店とかたまに行ったりすることですかね。〉また丁寧な文章。喫茶店、珈琲好きや甘いもの好きは一緒だ』




    

           ー好きなものが一緒、ゆうとは違うー




返信を考えるより先になんとなく余韻に浸りたかったので、ご飯を食べてから返信をすることにした。『喫茶店は私も行くの好きだけど、ゆうは一か所の場所で30分といれないから何度か行ったことはあれどあまり落ち着かないので行かなくなった。甘いものも食べなくはないがそんなに食べるわけではない。ゆうとなんで一緒にいれるかわからなくなりそうだ』今日はいつも楽しく見ているニュースの内容が、全く頭に入らずぐるぐるいろんなことを考えながら目の前の焼肉丼を食べていた。食べ終えたころにはゆうと一緒にいる意味を見いだせず別れる危機を迎える可能性を恐怖に思い考えるのをやめた。別れるのは嫌、ということは一緒にいる意味もあるはず。と自分の中で納得することにした。『返信しないと。〈犯人っていつもその人?ってなりますよね。私はコナンも好きなんですがたまに当ててます。喫茶店いいですね。ブラックはあまり好まないのですが、カフェラテとか甘いものが好きで私もたまに行きます。雰囲気も好きです。〉当たり障りなくこんなものかな』





            ーのめりこんではいけないー

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